結婚白書Ⅲ 【風花】


遠野さんは 奥様との話し合いを根気よく続けた



息子さんの小学校入学後 生活が落ち着いたらという条件で

奥様が 離婚を承知したと聞いたのは 私達が出会って 

二度目の夏を迎えた頃だった



嬉しかった これでやっと世間に認められる二人になれた

それは嬉しかったが・・・・


賢吾君のことを考えると 手放しでは喜べなかった

なんの罪もない 小さな彼が犠牲になってしまった


このことは 私の中に しこりとして ずっと残ることになる
 




全国会議が一ヶ月後に迫った秋の日 彼の離婚が正式に成立した


そして 遠野課長が離婚した噂は 瞬く間に局内に広まった



私と彼の間は 何一つとして変わってはいなかった

両親は依然として話には応じてくれず 私の不安が取り除かれることはなかった



冬の海の抱擁が 今の私の支えだった
 




「遠野課長の別れた奥様 料理研究家でしょう?

最近 マスコミにも登場してたって聞いてたから 

忙しすぎて 生活のすれ違いが原因かしらね」



水城さんが 同情の顔で上司の離婚の原因を推測する


私には関係ないという顔で話を聞いていたが 

彼の事が 人の口の端に登るのは辛かった




「私の替わりに入る川本さん 気が利いてるわよ 

仕事の覚えも早いし 私も安心して産休に入れるわ」



水城さんは 今月末から産休に入る事になっていた


彼女の替わりに臨時に採用された川本さんは

先月臨時職員で採用された女性で 以前は銀行に勤めていたそうだ

歳は私より 少し下だろうか



「ただねぇ ひとつ気になるのが 課長への態度なの

そりゃ課長は独身になったし 何の問題もないけど 

それにしても彼女 積極的よね」



私もそれは気がついていた

仕事中 彼女の目が遠野さんを追っている

指示を受けながら 不自然なまでに彼に近づく姿が目の端に入っていた


彼女の存在は これから私を悩ませる事になるのだった



< 68 / 132 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop