結婚白書Ⅲ 【風花】
18.嫉妬


全国会議を一週間後に控え 準備に追われる日々

残業が続いていた



「どうでしょう 金曜日だし 今夜は早く切り上げて飲みにいきませんか?」



課長補佐が提案し 仲村課長の課と一緒に出掛けることになった





離婚の話し合いは 始めこそ上手くいかなかったが

お互いの気持ちのズレや今の生活状況 仕事への意識の差など 

話し合ううちに 結婚生活の維持に無理があると 妻も理解してきた


フードコーディネーターとして マスコミにも顔を出し始めていた彼女が

東京を離れるのは無理だった

私には まだ数年間の地方勤務が残されている

一時本省に戻っても地方赴任を繰り返すのは明らかだ

近くに住む妻の両親にとっても 彼女の存在は心強いものになっていた


夫婦間では すでに冷めている愛情も 息子は別だった

この子に良い状態を保ちたい

その気持ちに偽りはなかったが 両親の不和が子供に

どのような影響をもたらすのか……

一番悩んだ点だったが それも 義父の言葉で決着がついた



「衛君 君には不自由な思いをさせてしまった 

娘がそばにいてくれることに私たちも頼っていた 本当に申し訳ない

君や娘の不安定な気持ちは 賢吾に伝わっていたようだよ 

だんだん無口になっていたからね

両親の不和は子供にとって良いことではないと思う

賢吾のことは これかも支えていくつもりだ 

君もできるだけ賢吾に会いに来てくれないか」



義父に頭を下げるしかなかった


賢吾の養育費は大学卒業までとし 親権は妻に渡した

息子とはいつでも会えるよう取り計らってもらい 私たちの離婚は成立した

  



妻と離婚が合意した日のこと



「私たち こんなに話したのは初めてね……貴方がそんな思いでいたなんて 

もっと早く話し合いをしていたら どうにかなったかしら」


「……そうかもしれないが……どうだろう」


「もう手遅れ……よね」


「気がつくのが遅すぎたよ お互いに……」



いつもは自信に満ち溢れている彼女なのに

”嫌いになって別れるわけじゃないのよね” と 

自分に言い聞かせるように言う 寂しい横顔があった



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