結婚白書Ⅲ 【風花】


離婚は 結婚の数倍エネルギーを使うと よく言われるがまさにその通りだった

仕事の忙しさと相まって 夏を過ぎた頃 私の体重は数キロ減っていた




その後 朋代のご両親の元に伺ったが

私達にとって 厳しい状況は変わってはいなかった



「君が離婚しようが そんなことは問題じゃない 

それ以前の問題だと 前にも言ったはずです

それより 娘と別れてくれとお願いしたのに まだ続いていたとは……

お引き取りください」



まったく取り合ってもらえない

それでも 時間の許す限り足を運んだ







「川本さん なかなか積極的だね 遠野君 離婚したらモテるじゃないか」



大ジョッキを持ち上げながら 仲村さんがからかう



「冗談はよしてください 本当に困ってるんですから」



水城さんの替わりに 臨時で採用された川本さんは 仕事も出来るし 

言われたこともそれ以上にこなす

産休 育休の代理採用のため 彼女には水城さんと同じだけの仕事量が

要求されたが 彼女はそれをこなすだけの技能を備えていた

ただ困ったことに 私に好意を持っていることを隠そうとしない

そのうえ 積極的にモーションをかけてきた

今日も当然のように隣に座って あれこれ私に話しかける



「課長 お一人で不自由してらっしゃるんじゃありませんか?

家のこととかお困りでしたら 私伺いますから」


「いや 大丈夫 一人暮らしにも慣れて それなりに気ままに過ごしているよ」



朋代をチラッと見たが 私に無関心を装っているのか見向きもしない

仲村さんが そんな私を可笑しそうに見ていた



「帰る方向が一緒なんですね お送りします」



そう言うと 川本さんが同じタクシーに乗り込んだ

後から乗ってきた朋代は 相変わらず素知らぬふりをしている



私を挟んで両脇に女性が乗る

タクシーの運転手が ”両手に花ですね”と 言わなくても良い冗談を

言ってきた


川本さんは 車内でもずっと私に話しかけてきた

仕方なく相槌をうつが 朋代の態度が気になっていた

私たちの会話にまったく入ってこない

隣に座っているのに わざと体を離して距離をおいている




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