結婚白書Ⅲ 【風花】


「私の方がドキドキしちゃった……」



朋代が部屋の奥から出てきた



「僕もだ こんなところ誰かに見られたらなんて 

自分で言っておきながら 気が咎めたよ」


「公私の別をつけたいと思ってるのね 遠野課長は……

私は部下じゃないからいいの?」


「嫌味なことを言うなぁ わかりきったことを」



朋代がククッと笑い 腕を絡めてきた



「しかし困ったな はっきり断らないと彼女にはわからないようだね


それには 早く君のご両親に認めてもらうことだ」


「今日も行くの?」


「あぁ そのつもりだけど どうして?」


「父の態度が失礼で 申し訳なくて……」


「そんな風に思わないで欲しい お父さんの気持ちもわかるからね

明日は休日出勤で行けないし やっぱり今日伺うよ」



最近は お父さんには会ってもらえなくなっていた

お母さんが話を聞いてくださるが 期待した答えはなかなかもらえずにいた

私が離婚したから 朋代と付き合ってることを公にしてもかまわないのだが

それではご両親の気持ちを踏みにじることになる

俯き加減の朋代を促して 彼女の実家に向かった






一年前から準備してきた会議がいよいよ始まった

大臣をはじめ 国会議員も出席する会議とあり 局長以下 管理職の緊張も

相当なものだった

空港へ来賓の出迎え 会場への案内 懇親会の接待 視察の手配

局内の職員だけでは対応しきれないため 地方事務所からの応援も頼み

職員総動員で対応にあたる

局長の訓辞のあと それぞれの持ち場に散っていった




今日の朋代は 私の目から見ても美しいと思う

背の高い彼女に カチッとしたスーツがよく似合っていた

髪が邪魔にならないようにアップにしているのか 首のラインが際だっていた


朋代は 招待者を迎える受付席にいたが 

男性の目が 彼女をチラチラと追っているのが何度となく見えた


彼女は僕の恋人だ

心の中で呟いた




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