結婚白書Ⅲ 【風花】


私の課は 会議場にあてられたホール内に事務局を設け 様々な対応に

あたっていた



「桐原さんってステキですね いつも冷静で 隙がなくて 

同性から見ても憧れます」



私の横で出席者の確認をとっていた川本さんが 突然こんなことを言い出した



「彼女は 年の割には落ち着いているからね」


「どうしたら あんな風に振る舞えるのかなぁと思って

私 思ったことはすぐに言っちゃうし すぐ行動するんです 

課長にも 迷惑だと思われないようにしますね」


「この前の事を言ってるの?迷惑だとは思ってないけど 君のことを考えると 

褒められた行動じゃなかったかも知れないね」



朋代を褒められ くすぐったい気分になった



「迷惑じゃなかったんですね? 良かったぁ 

それじゃ 今度は 他の作戦でいきますね」


「作戦って 川本さん 君も面白い人だね」



川本さんが嬉しそうに微笑んだ


彼女も一生懸命なのだろう

気持ちは嬉しいが それには応えられない




「全員会場内に入られました 受付終了です」



朋代の声だった



「わかりました 司会の方に伝えてきますね」



私の返事も聞かずに川本さんが走って行くと 部屋は朋代と私だけになった



「彼女 本当に気が利くわね」


「あぁ 助かってるよ 今 君の噂をしてたんだ

川本さんが 君に憧れると 自分も桐原さんみたいになりたいと言っていたよ」


「それにしては 楽しそうな話し声が廊下まで聞こえてましたけど」



朋代の頬が膨らんでいる

川本さんのことになるとクールな朋代は姿を消し 嫉妬する女の顔をのぞかせる



「みんな君を見てたね 誰かに誘われたりしなかった?」


「誘われましたよ それもたくさんの方からね 

今夜は その方達を地元のお店に案内しなくちゃいけないの」



さっきの言葉への仕返しのつもりか 

悪びれた様子もなく そんなことを言う



「心配だな……僕もついて行くよ」


「遠野課長 それは無理ですね 

局長と一緒に お偉方の接待がありますから」



いたずらな笑みが返ってきた



「じゃあ仕事に戻るわ 接待 頑張ってくださいね」



くるりと背を向けて部屋を出て行った

彼女の背中を見ながら 連れ戻して抱きしめたい衝動に駆られた

そのまま連れ去ってしまえば どれほど楽になるだろう

私の戸籍が綺麗になれば ご両親の気持ちも変わるのではないか

甘い期待がどこかにあった



いつまで 待てばいいのだろうか

いつまで この苦しみが続くのだろうか


しかし これが 私達が犯した事への報いなのだろう

私は 今 ”待つ” という罰を受けている

耐えなければと思った




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