結婚白書Ⅲ 【風花】
19.情愛


秋を忙しく過ごしたせいか 今年は冬の訪れをいつもより早く感じる

あと一ヶ月足らずで今年も終わりだと思うと 今年は本当に早く駆けていった


一人暮らしを始めてから 家に帰るのは月に一度ほどだったのに

ここ二ヶ月近くは毎週のように 実家に通っている

そう簡単には許しをもらえないとは思っていたが 両親の気持ちは

思った以上に強硬だった

実家に帰るたびに目に入る ゆうすげの花の写真


”健気に咲き続ける花だよ”


父はそう教えてくれたが 人知れず咲く花が今の自分と重なってしまう



「おかえり……またその写真を見ていたのね」


「ただいま うん……人目を避けて咲く花なんだって 私みたいね」


「朋ちゃん そんなこと言わないの!」



母が辛そうな顔をしたが すぐに話題を変えた



「あら 今日は一人なの?」



母が 私の後ろを探す素振りをした



居間に行くと 父が本を読みながら 顔も上げずに嫌みなことを言う



「お前一人か ついにあきらめたか 意外と早かったな」


「お父さん そんな言い方ってないわよ 遠野さん本省に出張なの 

課長がどれほど忙しいか お父さんが一番良く知ってるでしょう」



最近は彼の話を聞こうともしない父に 今日は文句の一つも言おうと思っていた

父の態度は一貫して 私達の結婚には反対だった

理由は 世間に認められない関係だったから

遠野さんが離婚して 反対する理由もなくなったのに いまだにその姿勢を

変えなかった



「いつもは遠野さんが一緒だから言えなかったけど 

今日は私の気持ちを聞いてもらうわね」


「お前の気持ちってなんだ 言い逃れできないような事をしておいて 

どんな言い訳をするつもりだ」


「言い訳はしません お父さん達が認めてくれないのなら 

私 自分で決断しますから」



それまで話を聞いていた母が 私の言葉を聞いて身を乗り出した



「朋ちゃん 自分で決断するって 親の許しも得ないで結婚するって言うの?」


「だって仕方ないじゃない このままじゃどうにもならないし 

それに親の許しがなくても結婚できる年齢に充分足りてます」


「遠野さんはそのことを知ってるの? 

今までの話では 私達に許してもらうまで待ちますって

そう言ってたじゃないの」



そうだ 彼はいつもそう言ってきた

でも もう私の方が限界 このまま先が見えないなんて……



「遠野さんは知らないわよ 私がそう決めてるの 

だって このままじゃ私一生結婚できないもん」


「お父さん 何とか言ってくださいよ」



母が私の言葉にうろたえている



「親の気持ちもわからない娘など知らん」



怒鳴るように言うと 部屋を出て行った 



< 75 / 132 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop