結婚白書Ⅲ 【風花】


「ちょっと言い過ぎよ お父さんを怒らせてどうするの 

お母さん 朋ちゃんの気持ちがわからない訳じゃないのよ」


「いいわよ わかってもらわなくても……」


「待ちなさい どうしてそう簡単に答えをだすの 親の気持ちも考えなさい」



母が情けない顔で私を見ている



「私 遠野さんに申し訳なくて……毎週のように来ても 

お父さんは会ってくれないし お母さんはただ話を聞くだけ 

なんにも進展しないじゃない」



母が 座り直して私を見据えた



「娘を育てた親として 貴女を常識的に育てられなかった事を悔やんでるの

でもね なにがなんでも別れなさいと言ってる訳じゃないのよ

相手の方が離婚しました ”はい そうですか” と認めてられないの 

わかる?」


「わかるけど じゃあ どうすればいいの? 

このまま いつまで待てばいいの?」


「この話は またあとでね 今夜は泊まっていくんでしょう? 

お夕飯の支度を手伝ってちょうだい」



母は 深いため息をついて話を切った



夕食時も父は黙ったまま まるで 声を掛けるなと言うような顔をしていた

見かねた母が 思いあまったように聞いてきた



「朋ちゃん 遠野さんのご両親にはお会いしたの?」



父の眉が微かに動いたが 気づかないふりをして答える



「まだよ 外国に住んでらっしゃるの 帰国は一年に一回だって」


「外国って 海外赴任?」


「うぅん 海外永住だって聞いてるわ 

お父さんの定年と同時にタイに移り住んだって聞いたけど」



母が信じられないと言う顔で聞いている



「いいご身分だな」



父が新聞を読みながら吐き捨てるように言った



「日本より物価が安いから 暮らしやすいそうよ」



父は ”フン” と言って興味なさそうな態度を見せる




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