結婚白書Ⅲ 【風花】
衛さんに電話してみようかな……
携帯に 『まだ起きてる?』 とメールすると すぐに電話がかかってきた
「どうしたの 何かあったのか」
慌てた声だった こんな真夜中に連絡などした事がなかったから驚いたのだろう
「うぅん 声が聞きたくて……今夜は実家に泊まってるの」
両親と交わした会話をかいつまんで伝えた
「父と ちゃんと向かい合って話をしようと思うの
父もこのままじゃいけないって思ってるはずだから」
「僕が帰るまで待ってれば良かったのに 一人で大丈夫?」
「大丈夫 これは私と父の問題だから 衛さんも自分で乗り越えたでしょう」
「朋代……」
「本当はね さっきまでどうしたらいいんだろうって悩んでたの
でも衛さんの声を聞いたら元気が出てきたわ」
「それならいいけど 無理はしないで欲しい 来週帰ったら僕も伺うよ」
彼の声が私の迷いを解いていく
しばらく話をして電話を切った
安心したのか いつの間にか眠りについていた
翌朝 父の姿が庭にあった
庭木の手入れなのか 軍手とスコップを手にしている
「こんな寒い時期に木の植え替えをするの?」
「この時期だからいいんだよ」
昨日の声を荒げた父と違い いつもの落ち着いた声が返ってきた
私の顔を見ることなく 手に持ったスコップで土を掘っている
「木の移植は 植物の成長しない時期にした方がいいんだ
暖かい時期に移植すると 根や枝を痛めてしまうからね」
木や花について問わず語りのように父が話をする
私はそれに対して相槌をうつ
一見穏やかだが 緊張した空気が漂っていた
「梅の苗木だ 来年は花は無理だろうが ちゃんと手をかければ
いつか必ず花をつける」
話しながら掘った穴に水を入れて 苗木を置き また水をまく
再びスコップを手に取り 丁寧に土をかけていく
さらに土を盛り その周りに水をたっぷり浸み込ませていた
「そんなに水をまくの?」
「水あげが悪いと根がはらないんだ 乾燥したらすぐに枯れる」
お互い こんな話をしたいわけじゃない きっかけをさぐっているだけ
そんな危うい均衡を破ったのは父だった