恋とくまとばんそうこう
胸の奥でカチリと確かな音を聞いたその日から俊は彼女を黒い色眼鏡で見なくなった。
むしろ優しい色合いの色眼鏡を改めて掛け直し、彼女を垣間見ると、相変わらず避けられているにも関わらず俊はこっそり微笑んでしまうのだ。
プリントを配る、震える白い手だとか。
ほんのちょっと間合いを取られた後の顔を両手で恥ずかしそうに抑える仕草だとか。
今まで気付けなかった小さな事が、俊の鈍い胸を甘く優しく刺す。
彼女の制服が半袖になって、更に長袖に戻る頃には…俊の心臓はボロボロだった。
明らかに避けられては凹み、
部活に出て爆弾が落とされれば自分の動悸を落ち着かせるのに必死になり、
更にまた避けられては凹み、
そしてその行動の影に、ふと彼女の甘い頬の色が運良く見られれば、妙に気持ちが切なくなるのだ。
ああ、
俊は部室で疲労を隠し切れず胸をかく。
なんだか、
あの無害そうな伏せられた瞳に、振り回されている気がする。
情けなくもあり心地良くもあり、そして困ってさえいた。
野球以外でこんなにも心を砕く事があるのかと。
表向きはポーカーフェイスを保ちつつ、その小さな小さいため息は隣の松浦にしか聞こえなかった。