恋とくまとばんそうこう
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「これ、使ってください…!」
「……悪い、監督に禁止されてるから…。」
監督を犠牲に(いや、実際禁止されてるけど)すごすごと俊は金網の扉から逃げる。
はぁ、と1年野球部員が集まっているグラウンドの端に戻りながら思わずため息をつき、俊は帽子を被り直した。
ベシンッと肩を叩かれ、ブスッと睨んでくる友人に小言を言われる。
「おっ前ホント女の敵だなっ。受け取るだけ受け取ってやればいいのに!」
「…。」
当の本人はげっそりした瞳で、プンプン怒る友人を無言で見つめると、ガシッとボールを握ったままのたくましい腕が俊の首に回って来た。
「許してやれよ。」
松浦だ。
「こいつもそこそこ苦労してんだから。前にそういって受け取った女から“受け取った責任だ”とかって色々無茶振りされたんだよ…。だから今は全部断ってんの。な?」
ニカッと笑う白い歯は焼けた肌と合わさって眩しい。
「まぁ俺は貰えるもんは全部貰ってるけど。」
眩しいのは歯だけだった。発言が黒かった。
“全部”の中に物以外も含まれている事をそこの部活仲間は知らない。
ふーん?と首を傾げる仲間に、聞こえるか聞こえないかの音量で松浦は更に続ける。
「それに、俊は一途なんだよなー。」
ニヤリ。
うっ。と俊が不機嫌な顔をすると松浦はさも可笑しそうに笑った。
「あーっはははっ!軟式の王子は純粋だなぁ!」
「別に…純粋とかじゃねぇし…。」
本当に、自分はそんなイイもんではない。
俊はため息と共にそう言って、ふと千葉嬢の想像上での柔らかい唇の感触を思い出した。
…………ダッ!!
ポーカーフェイスの下で、あーーーっっと頭を振り俊は邪念を捨てようと躍起になる。
片付け出す仲間に混じってゆっくりとグローブに手を伸ばした。
…♪♪
あ。
部活終わり際の空に伸びる、透明な声。
その声が、俊の胸を締め付ける。
そして今日も夕陽と共に聞こえてくる彼女のソロに、目をそっと閉じて耳を傾けた。