恋とくまとばんそうこう
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今日も、拙いピアノが聞こえる。
彼女が新しい曲を歌う時は、まず音程を確かめるみたいにたどたどしいメロディが夕方の空に広がるのだ。
弾いているのは、やっぱり彼女なのだろう。
…俊は、二年になっていた。
『滝井君の誕生日、なんか渡すの?今度こそ渡せるんでしょうねぇー?え?クッキー⁈私にも頂戴!』
私プレーン味がいい‼︎
そんな叫び声が聞こえたのは三学期の末。
ちょうど、俊の誕生日は一年の終業式の日だった。
クリスマスも、バレンタインも、同じような会話が聞こえて俊を落ち着かなくさせたのは新しい記憶。
でも、それらが手元にやってくる事はなかった。
「(…クリスマスのマフラー、どうなったんだろうな。)」
自分の為に編んでくれていたというそれ。
…嬉しい。
正直女性からの贈り物というものには今まで喜びより戸惑いの方が多かった。
なのに、彼女から、千葉澄香からだといわれれば。
それは喜び以外俊には見つけられなかった。
だから、当日の落胆は普段の比ではなかった。
もし、他の誰かの手に渡ったなんて聞いた日には、その誰かに対して怒りすら覚えるだろう。
彼女からだったら、欲しい。
手元にない今、もしもらえるならどんな柄でも欲しいと俊は頑なに思った。
どんなに下手くそでも、毎日巻いて行くのに。
「(千葉からだったら、…もうなんでもいい。)」
欲しい。
なにもかも。
そんな飢えた心は、終業式が終わっても潤される事はなかった。
また、胸が渇いて行く。
それは痛みも伴うほどだった。