恋とくまとばんそうこう
くっそ、間に合うか…っ?
もう歌は完全に止まっている。
行き違いになる可能性だってある。
それでも俊は止まらず、全ての階段を登り切って音楽室を目指した。
角を曲がった時、ドンッ、と何かが体にぶつかり、それが吹っ飛ぶ。
あ。
…千葉だった。
久しぶりに、本当に久しぶりに合う、曇りのない瞳。
尻餅をついている彼女に手を伸ばして、捕まえる。
心なしか力が入ってしまった。
千葉、千葉…。
するりと、なんの抵抗もなく頼って来たその細くて白い手首に、俊はやっぱり少し後悔した。
こんなにあっさり捕まえられるなら、もっと早くあの階段を賭け上がれば良かったと。
痛くもなんともなかったが、スコアで切れたという自分の頬に千葉が謝りながら慌てて絆創膏を貼る。
その慌てっぷりが、あの時を思い出した。
俊に気合いを入れてくれた、あの時。
貼った後もずっと慌てているから、俊はその場に合った水場の鏡を覗き込む。
可愛い絆創膏だった。
鏡越しに更に慌てる千葉が写る。
…あれだけ避けていた千葉が。
今、慌てながらも、そばにいる。
自分のそばに、逃げずに立っていてくれる。
それは感動にも近い感情だった。