恋とくまとばんそうこう
部室を出て、校舎の入り口に向かう。
足の裏がじゃりじゃりと大きく砂を掻いた。
ガタンガタンとカバンが背中で跳ねる。
一歩走る度に体にぶつかるカバンは地味に痛いが、気にしている暇はなかった。
千葉…。
…彼女は、もう校門を出てしまったのだろうか。
それとも部活自体早退していたりして。
既に自宅なら、俊は本日も諦めなければならない。
知らず、ため息が出る。
しかしすぐに大きく息を吸い込み、自分に活を入れた。
今日だけだ。
また明日、攻めに行く。
待ってろ、千葉澄香。
「…!」
そんな事を考えながら水飲み場の角を曲がると、ドンッと人にぶつかった。
俊は反射的にその人物の腕を取る。
手を引っ張りながら、俊は目を丸くした。
今、目の前にいるのは千葉澄香…まぎれもなく彼女だった。
彼女もびっくりしたように口と目を大きく開く。
昨日も、こうやって彼女とぶつかった。
なんだか可笑しくなり、俊はくしゃっと笑って彼女の体を元の角度に戻す。
「…千葉、ぶつかり過ぎ。」
「あ、…あのね!」
彼女の跳ねる声に、どくんと心臓が音を立てた。
千葉が。
あの千葉が、自分の目の前でカァッと頬を赤くして、切なそうに眉を潜める。
そんな苦しげな瞳で見られるなんて、数秒前の俊には想像出来なかった。
腹の底でグッと熱が噴き上がる。
自分を制しながら、俊は彼女の手を引いた。
俊はちらりと隣のグラウンドに視線を投げる。
…他の生徒に、彼女のこんな切なそうな顔を見られたくなかったのだ。