恋とくまとばんそうこう
目を見開いて、しばらく無言で俊を見つめていた彼女が、その後なんだか泣きそうな顔をして声をぽつりぽつりと落とした。
「あのね、」
「うん。」
彼女の伏せられた長いまつげが影を作る。
「クリスマスに渡そうと思って編んでたマフラーは、何故か腹巻きみたいになりまして…、机に眠ってます。」
マフラーの行方に俊は思わず笑った。
「それからチョコケーキは、…家で“お父さん”という大きなネズミが出まして、かじられてしまいました。」
初めて彼女から出た冗談に、内心驚き喜びながらも俊は微笑みの表情を崩すことなく彼女を見つめる。
「それから、それから…3月の誕生日に渡そうと思ったクッキーは、…私が食べちゃった。」
後悔。
自虐的に眉を顰める彼女の頬に、そう書いてある。
「…。」
俊は何かを言おうと口を開きかけたが、何も出てこなかった。
彼女も、…迷ったのだろうか。
自分のように、散々。
言いたいのに言えなくて、一歩踏み出したいのに踏ん切りが付かなくて。
伝えたいのに出来なくて。
そう思うと、胸の奥が熱くなった。
彼女も、千葉も、そんなふうにいっぱい迷って、悩んで、自分の事をずっと考えてくれていたのだろうか。
「でも…っ、でもね!」