竜の箱庭
「何故そんな酷いことを…!」

リーズが思わず声をあげる。
村人たちは、そんなリーズの声など聞こえていないのか、尚も怒りの収まらない表情で続けた。

「兎に角、視察に来られている王都の役人に、明日引き渡すからな」


 そう言って、村人たちは去っていった。
集まっていた村人の中には、シィの友人の父親たちも混ざっていた。
ただ、その中にネリーの父親がいなかったことだけは、シィの気持ちを幾らか軽くする事ができた。

「…シィ」

ルードに優しく声をかけられ、シィは思わずびくりと肩を震わせた。

「父さん…」

「すまない…。本当は、ちゃんと話しておくべきだったな」

寂しそうに笑うルードを見ると、隠し事をされていた事にたいする恨み言も、何も出てはこなかった。
ただ、この優しい二人を村人たちの憎しみの対象にしてしまったことが、シィは悲しかった。

「父さん、私…」

「…安心しなさい、役人に突き出させはしない。いいかい、シィ。今から父さんたちがお前を逃がしてあげるから」

そう言って頭を撫でるルードの手は、とても優しくて。
シィは涙が零れそうになった。

「私…どこにも行きたくないよ…」

「わかって、エルシア…母さんだって、あなたと離れたくないわ。だけど、王都に連れていかれてしまったら、どんなことをされるかわからない…。だから、あなたはここから逃げなくちゃ…」

「わからないよ!来訪者ってなんなの…?どうして来訪者と呼ばれる人たちは、王都に連れていかれなくちゃならないの?」

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