黒姫
理不尽だ、という想いは一瞬だけ頭を過ぎり、そしてあっさりと仕方ない、に侵食され消えた。
理不尽な暴力に慣れてしまった瑞姫には、もはや仕方ないとしか思えなくなっていたのだ。
助けなんて初めから期待していないから、未だ振り翳される暴力にされるがままになって、ただ早く終わることを望んだ。
それだけ、だったのに。
「へぇー、高校生にもなって馬鹿な奴もいるもんだな」
冷たい、嘲笑を含んだ声が聞こえた。
男子と聞き違えそうになるが、声の高さからみて女子であろう。
「なぁ、お前もそう思うよな? 青野」
青野。
その苗字を聞いて瑞姫は思わず身体を跳ね起こした。
押さえていた男子の方も、見知らぬ女子の言葉に唖然としていて、だから拘束は簡単に外れる。