クリスマスの夢 ~絡む指 強引な誘い 背には壁 番外編~
木曜日の約束
♦
予想通り巽は前日の水曜の夜、電話をかけてきたと思うと、今日は自宅に帰れない、ということと、
「明日のランチはそう無理だ……」
と控えめに告げた。
「いいよ、別に。四対さんと行くことにしているから」
本当はそんなつもりになど全くしておらず、巽と一緒に行く店ももう決めて地図もきちんと確認していたが、落ち込み過ぎて、そう言わなければ気が済まなかった。
「……アイツのことは信用している。
お前も含めてな」
「ただの友達だから別に、食事くらいいいでしょ? いいよ。明日行きたかったところ、四対さんと行くから。っていってもあの人も忙しいしね、電話しても出ないかもしれないけど」
「…………」
「え、何?」
香月は何の疑いもなく、巽の言葉を待った。
「四対は明日、矢松大臣と会食するそうだ。おそらく、断られるだろう」
「知ってんなら最初から言ってよ!! 何で試そうとするのかなあ。 んじゃ、いーい。明日は家でいるから。……ランチ、一緒に行ってくれる友達もいないし」
思えば、今まで佐伯や西野がその役割を全て担ってくれていた気がする。会社の後輩であり、仕事の愚痴も、恋愛の話もできていた佐伯がいなくなって、他に誰か誘おうとしても、最初からそんな人もいないし、また、今更新しく作る気もしない。
あの後、烏丸とはアドレスを交換したが、まさか一緒に料理教室に行く気にはならないし、クリスマスだってこのままではどうなるか、怪しいものだ。
「……四対しか、友達がいないか?」
妙に今日は突っかかるな、と眉間に皴を寄せてしまう。
「…………」
だが、返す言葉が見つからなかった。そうなのかもしれない。私には、友達は、四対しかいないのかもしれない。
「あ、そんなことないよ。前一緒に住んでたユーリさんは、友達だよ。明日ランチに行ってくれるかどうかは分からないけど」
そういうオシャレすぎる場所が似合わないユーリを誘う気にはなれないし、ユーリは友達だけど、関係は遥かに薄い。
「友達作り、しなきゃね……」
静かに発したその言葉は、重い。
電話も静かに切れる。
大臣と会食の約束をしている四対。……本当に約束をしているか、聞いてみようか……。
そのままかける勇気はなかったが、待ち受けに四対の番号を表示して、一応悩む。
友達の度を越す可能性は低いが、巽が嫌がっているのなら、連絡も控えた方がいいのかもしれない……。
「うわっ!!」
突然携帯が震えて驚いた。
弾みでボタンを押してしまい、相手と電話がつながってしまう。
「もしもし……」
「明日のランチだけど、悪ぃな……」
この、グッドなタイミングに、笑えた。
「ええー」
とりあえず、笑って四対の断りを聞き入れる。
「矢松大臣との会食が入ったけど、茶飲むくらいなら時間あるよ。2時から3時」
「公園にリンゴの皮のお茶持っていこうか?」
そのつもりは全くなかったが冗談のつもりで笑顔で言った。
「悪ぃ……ヒルズビルでしか会えないわ。時間ない」
たった一時間、仕事を抜けさせるのも悪い。
「ううん。いいよ。また今度にしよう」
明るく、軽く言っておく。
「何だよ。せっかく時間作ってやったのに」
「…………あそう?」
「そーだよ。約束は約束だからな。俺、そういう社交辞令の約束はしない主義なの」
なるほど、そういうのが社長という奴なのかもしれない、おそらく、巽の場合はこちらとの距離が近すぎてそういう約束はすぐに無効になるのだろう。
「……じゃあ行くよ。ヒルズビルに明日の2時でいいの?」
「あぁ。2階のカフェで待ってる」
「うん、ごめんね、なんか約束させて」
「はあ!? 嫌なら最初からするかよ。じゃあな、切るぞ」
四対はいつもストレートで分かりやすい。無駄な駆け引きや顔色伺い、ましてや社交辞令など必要ない。しかし、こういう態度が大きな会社を動かしているのかもしれない。逆に、こういう態度でないと、会社を動かすことはできないのかもしれない。
予想通り巽は前日の水曜の夜、電話をかけてきたと思うと、今日は自宅に帰れない、ということと、
「明日のランチはそう無理だ……」
と控えめに告げた。
「いいよ、別に。四対さんと行くことにしているから」
本当はそんなつもりになど全くしておらず、巽と一緒に行く店ももう決めて地図もきちんと確認していたが、落ち込み過ぎて、そう言わなければ気が済まなかった。
「……アイツのことは信用している。
お前も含めてな」
「ただの友達だから別に、食事くらいいいでしょ? いいよ。明日行きたかったところ、四対さんと行くから。っていってもあの人も忙しいしね、電話しても出ないかもしれないけど」
「…………」
「え、何?」
香月は何の疑いもなく、巽の言葉を待った。
「四対は明日、矢松大臣と会食するそうだ。おそらく、断られるだろう」
「知ってんなら最初から言ってよ!! 何で試そうとするのかなあ。 んじゃ、いーい。明日は家でいるから。……ランチ、一緒に行ってくれる友達もいないし」
思えば、今まで佐伯や西野がその役割を全て担ってくれていた気がする。会社の後輩であり、仕事の愚痴も、恋愛の話もできていた佐伯がいなくなって、他に誰か誘おうとしても、最初からそんな人もいないし、また、今更新しく作る気もしない。
あの後、烏丸とはアドレスを交換したが、まさか一緒に料理教室に行く気にはならないし、クリスマスだってこのままではどうなるか、怪しいものだ。
「……四対しか、友達がいないか?」
妙に今日は突っかかるな、と眉間に皴を寄せてしまう。
「…………」
だが、返す言葉が見つからなかった。そうなのかもしれない。私には、友達は、四対しかいないのかもしれない。
「あ、そんなことないよ。前一緒に住んでたユーリさんは、友達だよ。明日ランチに行ってくれるかどうかは分からないけど」
そういうオシャレすぎる場所が似合わないユーリを誘う気にはなれないし、ユーリは友達だけど、関係は遥かに薄い。
「友達作り、しなきゃね……」
静かに発したその言葉は、重い。
電話も静かに切れる。
大臣と会食の約束をしている四対。……本当に約束をしているか、聞いてみようか……。
そのままかける勇気はなかったが、待ち受けに四対の番号を表示して、一応悩む。
友達の度を越す可能性は低いが、巽が嫌がっているのなら、連絡も控えた方がいいのかもしれない……。
「うわっ!!」
突然携帯が震えて驚いた。
弾みでボタンを押してしまい、相手と電話がつながってしまう。
「もしもし……」
「明日のランチだけど、悪ぃな……」
この、グッドなタイミングに、笑えた。
「ええー」
とりあえず、笑って四対の断りを聞き入れる。
「矢松大臣との会食が入ったけど、茶飲むくらいなら時間あるよ。2時から3時」
「公園にリンゴの皮のお茶持っていこうか?」
そのつもりは全くなかったが冗談のつもりで笑顔で言った。
「悪ぃ……ヒルズビルでしか会えないわ。時間ない」
たった一時間、仕事を抜けさせるのも悪い。
「ううん。いいよ。また今度にしよう」
明るく、軽く言っておく。
「何だよ。せっかく時間作ってやったのに」
「…………あそう?」
「そーだよ。約束は約束だからな。俺、そういう社交辞令の約束はしない主義なの」
なるほど、そういうのが社長という奴なのかもしれない、おそらく、巽の場合はこちらとの距離が近すぎてそういう約束はすぐに無効になるのだろう。
「……じゃあ行くよ。ヒルズビルに明日の2時でいいの?」
「あぁ。2階のカフェで待ってる」
「うん、ごめんね、なんか約束させて」
「はあ!? 嫌なら最初からするかよ。じゃあな、切るぞ」
四対はいつもストレートで分かりやすい。無駄な駆け引きや顔色伺い、ましてや社交辞令など必要ない。しかし、こういう態度が大きな会社を動かしているのかもしれない。逆に、こういう態度でないと、会社を動かすことはできないのかもしれない。