たぶん恋、きっと愛
「携帯…持ってれば良かった」
鷹野も凱司も、持っている。
友達も皆、持っている。
今、雅が手に取った固定電話だって、凱司にファックスが届くくらいで、こちらから掛ける事は、ない。
「でも、遅れますって連絡…」
しないと…駄目よね。
スケジュール帳にメモされた電話番号をゆっくり押しながら、雅はもう一度、時計を見上げた。
“ライブで一緒にいた先輩たちと、水族館行って、海で花火してきます。9時にはご飯作ります”
そんなメモを、閉じたノートの上に置いた。
直接、現地に行きますから、水族館の中で遊んでて下さい、と先輩に連絡をした雅は。
大急ぎで着替えて家を出た。
駅までは間違えないで行かれるようになった。
帰れるようにもなった。
ちゃんと帰る部屋が、ある。
帰ってもいい部屋が、ある。
もう、今日はどこで時間を潰そうか等と考える必要も、なくなったのだ。
自由がない、と思う事はなかった。
居場所を作って貰えた事に、まだ戸惑いはあるけれど、純粋に嬉しいと、そう感じた。
「あ…凱司さんは今日…夕飯いらないのかも…?」
ふと思ったけれど。
点滅しはじめた青信号に慌て、雅は駅へと、走っていった。