たぶん恋、きっと愛






そういえば、鷹野さんギター弾けるって言ってたなぁ、と。

ぼんやりと、思った。


着せられた黒いパジャマは置いてきた。
ありがとうとは言っては来たけれど、雅はなにか。

足りない気がしていた。


凱司さんにしか…宿泊代…払ってない、けど。
二人ともに支払うべきだった…の…かな、などと。

唇を押さえ、雅はぼんやり考える。


いくらなんでも、キスにそんな価値があるなんて思えない。
やっぱりお金を払えば良かった、と雅はため息をついた。



ここから、彼らの家までは遠くないはずだ。

駅まで戻り、逆の出口に出て、拾われたあの場まで戻り………どう行けば、良かったっけ…?



ポタポタと水滴を落とすペットボトルを軽く振り、落ちた水滴が作る模様を見つめる。


真夏の日差しに、熱く焼けたアスファルト。
落ちた水滴は、乾くのも早かった。

ライブハウスの中から、楽器の音が聞こえる。

音楽ではなく、合わせているだけなのか単一な、音の重なり。

雅の横を何人かが通り、中に入っていくけれど、うつむいて地面に落ちた水滴を見ていた雅は。

その靴の先すら、見ていなかった。



 
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