In the warm rain【Brack☆Jack3】
「――今なんつった?」


 低い声音。

 だがエイジは表情を変えずに繰り返す。


「あの店、辞めるっつったんだよ」

「ワケくれェ教えてくれてもいいんじゃねェか?」

「………」


 エイジは立ち上がり、キッチンに行ってコップに水を注ぐ。


「ま、色々と…な」

「俺にも言えねェことなのか? ヤバいのか」


 レンは声音を元に戻して聞いた。

 エイジは黙って水を飲み干す。


「んなことねェさ…今までだってこうして普通に生活できてるじゃねェか」


 キッチンから聞こえてくる声に、レンは黙って耳を傾けていた。


「…店を辞めてどうすんだ?」


 缶ビールを一口、口に運ぶ。


「ホン・チャンヤーの一件が終わって以来一年、やっと落ち着いてきたからな。俺もそろそろ、好きなことやろうと思ってよ」

「どういう意味だ」

「ここを出ていく」


 何の躊躇いもないエイジの言葉に、レンはそれ以上、何も言わなかった。
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