メルヘン侍、時雨れて候
「くそう! くそう! ご隠居の野郎め! なんだっていうんだい! 偉そうに! くそう! くそう!」

怒りというものは衝動であり、それはシンプルにエネルギーへと変換される。

のんびりやさんのメルヘンさんにとって、この怒りというのは珍しい感情だった。それに、怒りだけというシンプルなものだけでもなかった。

いったいどうしたというのだろうか。


たとえば、こんなことを感じたことはないだろうか?

あんだけやる気満々だったのにゴハンを食べて満たされてしまうとなにもかもどうでもよくなってしまうことが。

これまでのメルヘンさんであれば、さらにその上を行っており「おなかが空いたなぁ」と言葉にして、自分の耳で聞くことで、「まぁいいか」とそれなりに納得をし、満足していた。


だけど、今日のメルヘンさんは少し違った。

机の上におにぎりを二つならべて、それには見向きもせずに紙に顔を近づけてグリグリと小説の続きを書き続けていた。

短く先の丸くなった鉛筆からは、こんな一文が強い筆圧で書き殴られていた。

“そのために僕は追いつかない二月を、追いかけることで、三月の気持ちを少しでもこちらに向けようと思う。”







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