涙と、残り香を抱きしめて…【完】
マンションに着くまでの数十分、車内での会話は仕事の事ばかり。
確信に触れないまま、車はマンションの駐車場に到着した。
「…辛くないか?」
「えっ?何が?」
「ダイエット…」
エレベーターに乗っても、まだそんな事を言っていた。
早く星良に自分の想いを伝えたいのに…
気持ちばかりが焦る。
エレベーターが開き、足を一歩踏み出した星良の背中に近づき、やっと声を掛けた。
「俺の部屋に…来ないか?」
星良の動きがピタリと止まり、エレベーターの扉を押さえた手が微かに震えている。
「…どうして?」
「話しがあるって言ったろ?」
「話しなら、ここでも出来るでしょ?どうして仁の部屋なの?」
「星良…?」
振り返った星良の顔は、怒りと悲しみが入り混じった複雑な表情をしていた。
「…離婚…するんでしょ?」
「……!!」
どうして星良が離婚の事を知ってるんだ?
「わざわざ、そんな報告いらないわよ!!
離婚したければすればいい。
もう私には関係無い事よ!!」
「何言ってる…」
「振った女にまで律儀にそんな事言いに来なくていいって言ってるの!!」
興奮し、怒鳴る星良を落ち着かせようと彼女の肩を掴むが、俺の手を振り払い鋭い視線をこちらに向ける。
「星良、確かに俺は離婚する。でもな、それは…」
「安奈さんの為なら、なんでも出来るって事でしょ?
今まで一度も入れてくれなかった部屋に私を呼んで、安奈さんと2人で結婚の報告でもするつもりだった?」
「違う!!」
「何が違うって言うの?
2人の幸せな姿を私に見せ付けたかっただけでしょ?」
完璧に星良は誤解している。
この取り乱した星良をなんとかしなければ…と、力任せに嫌がる星良を抱きしめた。
だが、次の瞬間、思いもよらぬ言葉が俺の耳元で響く…
「私、成宮さんと…結婚するの」