涙と、残り香を抱きしめて…【完】
「島津…星良?」
「以前に付き合ってるとお知らせしたと思いますが…」
「あ、あぁ。そうね…そうだったわ…」
何があっても動じない凛子先生が、珍しく動揺している。
「成宮…その結婚だけど、島津星良は同意してるの?」
凛子先生…どうしちまったんだ?なんでそんな事を聞く?
「もちろんですよ。彼女の方から、この企画が終わったら結婚しようと言ってきたんですから…」
「あの子の方から…」
なんだか変な雰囲気になってきた。
俺と星良の結婚が、そんな驚くほどの事なのか?
黙り込んでしまった凛子先生に、ピエールが一生懸命話し掛けているが、凛子先生は上の空って感じだ。
いや、凛子先生だけじゃない。工藤さんも口数が減り、難しい顔をしている。
結局、それから間もなく俺達はレストランを出て帰る事になり、2人の奇妙な態度の理由は最後まで分からずじまいだった。
数日後…
午後からのミーティングで、企画の大体の流れが発表された。
どの衣装を何番目に登場させるかなど、真剣な議論が繰り返され、ピリピリとした空気が漂う。
凛子先生もいつもの調子に戻り、厳しい顔で指示を出している。
でも、ショーを行う場所についての説明に入った時、凛子先生の発言に、そこに居たスタッフ全員が眼を丸くした。
「今回のショーは、野外で行います」
「野外ですか?しかし、6月は梅雨時ですし、雨が降ったりしたらどうするんですか?」
「それは平気よ。雨は降らないから」
「えっ?どうして分かるのですか?」
「私が雨なんか降らせない」
なんという大胆発言。なんの根拠も無くよくここまで堂々と言えるものだ…
これには全員が絶句した。
「候補地は既に決まってます。そちらはピンク・マーベルの方に任せてあるんだけど、この6月にオープンする結婚式場を貸し切る事になってるの。
郊外にある緑に囲まれた素敵な所らしわ。
ガーデンウエディング風のショーにするつもりだから宜しく」