涙と、残り香を抱きしめて…【完】

相変わらず強引だな…


しかし、凛子先生の言う事は絶対だ。
異を唱えるスタッフは誰一人居ない。


そして…


「もうこんな時間か…」


ミーティングが長引いた上に、帰り際、納品されたベールを確認すると、長さが当初予定したいたものと違う事が分かり、慌てて確認と再発注をしていたら遅くなってしまった。


こんな事、凛子先生に知れたら大目玉だ。


誰も居なくなった事務所。もう9時を過ぎている。
帰り支度を済ませビルを出ると、運が悪い事に小雨が降っていた。


このくらいの雨なら大丈夫だろうと歩き出した俺の考えが甘かったんだ。
急に激しく降り出してきたと思ったら、あっという間にずぶ濡れ


「参ったなぁ…」


今更、事務所に戻るのもなんだし、これだけ濡れてコンビニで傘を買うのもバカバカしい。そのままマンションに向かって全力疾走。


マンションまで後、数メートル…という所でスマホが胸で震え出す。
仕方なく足を止め道沿いのショップの前で雨宿りしながらスマホを取り出すと…


「星良か…」


一瞬にして、俺の顔がほころぶ。


『ごめん。まだ仕事中だった?』

「いや、今帰りだよ」


どんなに疲れていても、彼女の声を聞くとホッとする。


本当なら、マンションに帰ってゆっくり話したかったんだが、安奈が居たらそうもいかない。


さすがに、安奈の前で星良と話すのは気が引けた。


降りしきる雨の中、近況を話し合っていると、今日、工藤さんが名古屋に来たと星良が言う。


工藤さんが名古屋に?いつも凛子先生と行動を共にしているのに、単独行動とは珍しいな。


「で、工藤さんは何しに名古屋へ?」

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