涙と、残り香を抱きしめて…【完】
チェーンを付けたまま扉を開けると、不機嫌な顔をした凛子先生が立っていた。
「り、凛子先生…どうしたんですか?」
内心動揺しまくりの俺。必死で笑顔を作ろうとするが、そう思えば思うほど顔が強張る。
「何言ってるの?一人暮らしで風邪引いて寝込んでるって聞いたら、知らん顔出来ないでしょ?
たまたま出掛ける用事があったから、様子を見に来てあげたのよ。
取り合えず食べる物を買ってきてあげたから、ここを開けてちょうだい」
「あ、いやぁ…そんなに気を使ってもらわなくても…」
「バカな子ね。何、遠慮してるの?
ほら、早くドアを開けなさい」
そう言って身を乗り出し扉に手を掛けてくる。
「あぁぁ…凛子先生、本当に大丈夫ですから…」
ダメだ…ここを開ける訳にはいかない。
もし凛子先生が部屋の中にまで入って来たら、安奈が居ることがバレてしまう。
いや、別に安奈が来てる事が凛子先生に知れても、なんとでも言い訳が出来る。
マズいのは、安奈が裸って事だ。何も無かったと言っても、絶対、信じてもらえないだろう。
星良との結婚を報告したばかりなのに、安奈にまで手を出したなんて思われたら、今度こそ間違いなく俺は切られる。
「開けなさいと言ったら、開けなさい!!」
痺れを切らした凛子先生が、扉の隙間から強引に中を覗き込んできた。
その時…
凛子先生の眼つきが変わったんだ。
「成宮…その靴…」
「えっ?」
凛子先生が指差した先には…
安奈の真っ赤なパンプスが…
「安奈が来てるの?」
「あの…それは…」
「あの娘、昨日は帰って来なかったのよ。
そんな事、今まで一度も無かったから心配してたんだけど…
まさか、ここに泊まったの?」
扉の隙間から覗く凛子先生の鋭い眼が、俺を刺す様に見つめている。
もう、誤魔化しきれない…
「はい…そうです」