涙と、残り香を抱きしめて…【完】
そんな事を言われても、恋愛感情の無い俺が安奈の初めての男になっていいものか…さすがに躊躇してしまう。
どうするべきか考え込んでいると、俺のスマホが鳴り出した。
一旦、安奈から離れスマホを手に取った俺は、ディスプレイに表示された名前を見て思わず息を呑んだ。
「…凛子先生」
その名を聞いた安奈の顔が引きつる。
しまったな…休みの連絡を入れるのをすっかり忘れてた。
「はい。成宮です…」
『成宮?あなた、今何時だと思ってるの?寝坊でもした?』
凛子先生の声は明らかにイラつていた。
「すみません。風邪を引いてしまった様で起きれなくて連絡出来ませんでした」
『ったく…自己管理がなってないわね。
いいわ、今日は一日、ゆっくり休みなさい。
でも明日は出て来るのよ!!』
「はい。すみません」
風邪を引いているのは紛れもない事実だが、後ろめたさはハンパ無かった。
ついさっきまで、凛子先生の娘を抱こうとしていたんだからな…
ため息を漏らしスマホをローテーブルの上に置くと、安奈が裸のまま俺に抱き付いてきた。
「蒼君…ベットに戻って?」
「安奈ちゃん…やっぱり無理だ…
初めての男は、安奈ちゃんを本気で想ってくれるヤツがいいよ」
しかし、安奈は納得せず、俺から離れようとしない。
仕方なく安奈の体に毛布を掛け、抱きしめてやる。
こんな事で納得してくれるかは分からないが、それが今の俺が出来る精一杯だった。
どのくらいそうしていただろう…
安奈が俺の腕の中で小さな寝息をたて出した。
体調が悪いのに無理しやがって…
おまけに、昨夜はほとんど寝ていないはず。
そっと安奈の体を抱き上げベットに寝かすと、玄関のチャイムが鳴った。
平日のこんな時間に誰だ?
どうせ、新聞かなんかの勧誘だろうと無視したが、今度は扉を激しく叩く音が狭い部屋に響く。
せっかく安奈が寝てホッとしたのに、眼を覚まされたら堪らないと、床に脱ぎ散らかしたパジャマを羽織り玄関に急いだ。
「どちらさん?」
「成宮?私よ。凛子」
なっ…嘘だろ?