涙と、残り香を抱きしめて…【完】

自己嫌悪…


控室でドレスを脱ぎ着替えている私を見てるメイクさんの視線さえも痛い…


あの後、雲行きが怪しくなり、結婚式のリハーサルは中止になった。
それがせめてもの救い。
あのまま続けていたら、恥の上塗りだった。


メイクさんにお礼を言って控室を出ると、ホールがやけに騒がしい。声のする方向に眼をやると、ホールの隅でモデルの人達が大声を張り上げ怒鳴っていた。


「凛子先生、アレ、なんですか?」

「そうですよ!!あんなふざけたモデル…今すぐ辞めさせて下さい!!」

「もう最低!!あのモデルに凛子先生のドレスを着る資格なんかないわ!!」


私の事を言ってるんだ…


他にも、外人モデルが英語で捲し立てマダム凛子に詰め寄っている。


そうだよね…モデルの人達が怒るのも無理はない。
自分でも呆れるほど酷かったもの。


その後も私を非難する声は止まず、居た堪れなくなった私は逃げる様にこの場を去ろうとした。


その時、1人のモデルが
「ウォーキングも満足に出来ないモデルと一緒にショーなんて出来ないわ。
彼女を降ろさないなら、私が降ります」と言った。


すると、今まで黙ってモデル達の話しを聞いていたマダム凛子が壁を力一杯叩き、叫んだんだ…


「黙りなさい!!誰をモデルにするか決めるのは私よ!!

いい?自惚れるんじゃないわよ。アンタ達程度のモデルいくらでも代わりは居るわ!!
でもね、あの島津星良の代わりは居ないの。

私はあの娘を降ろす気なんてさらさらないわ。
不満があるなら、今すぐここから出て行きなさい!!」


シーンと静まり返るホール。
誰もマダム凛子に反論する者は居なかった。


「凛子…先生…」


あんな失態をさらした私を…
あなたの顔に泥を塗った私を…
まだ信じてくれるのですか?


その気持ちが嬉しくて、胸が熱くなる。


そして、さっきまでのプロ意識の欠片も無かった自分に対し、無性に腹が立ったんだ…




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