涙と、残り香を抱きしめて…【完】

ソファーに座り、タバコに火を点ける。


すると程なく
白い湯気が立ちのぼるロンググラスがテーブルの上に置かれた。


「日本酒か?」

「ええ、寒いですからね」


成宮が何を考えて俺を誘ったのか…
探る様な視線を向けながら
熱燗を一口飲む。


「ほーっ…旨いな。
あ、悪い…灰皿借りれるか?」


タバコの灰を気にしながらそう言うと
成宮は誇らしげに


「俺、禁煙したんですよ。
だから灰皿は捨てました」
なんて言う。


「なんだ。そうだったのか…すまない」

「いえ、水沢専務は遠慮しないで吸って下さい。
こんなので申し訳ないですけど…」
と、俺に小皿を差し出す。


「一つ、質問なんですが…
水沢専務は、好きな女がタバコ吸ってても
気にならない人ですか?」

「好きな女…?」


コイツ、何が言いたい?
星良の事を言ってるのか?


「特に…気にしないが…
それが、なんだ?」

「そんなものですかね…
彼女の事が本気で好きなら
体の事が心配になる」

「まぁな…」

「実は、島津部長にタバコ止めろって言ったら
キレられましてね」

「島津に?」

「えぇ…」

「成宮部長補佐は、本気で島津の事が好きなのか?」


俺の質問に、成宮は照れながらコクリと頷いた。


成宮が星良に気が有るのは分かってたが
まさか本気で好きだとはな…


「でも彼女には、好きな男が居るんですよね?
8年も付き合ってる男が…
それも…不倫

水沢専務は、その事、知ってるんですか?」


成宮の真剣な表情にドキリとした。


そして
あの用心深い星良が、会って間もない成宮に
自分達の事を話していたのにも驚いた。


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