涙と、残り香を抱きしめて…【完】

なぜだ?
なんで成宮に…


「水沢専務は、島津部長を娘みたいに思ってるって言いましたよね?

それなら、辛い恋をしてる彼女をなんとかしてやろうとか
思わないんですか?

不倫なんて止めて、普通の恋愛しろって
どうして言ってやらないんですか?」


成宮の口から吐き出される言葉の一つ一つが
俺の胸に突き刺さり
鈍い痛みがジワジワと広がっていく。


そんな事、お前に言われなくても分かってる。
なんとかしてやりたい。
普通の恋愛をして、幸せな結婚をさせてやりたい。


誰よりも、俺はそう願ってるんだ…


「島津が不倫してる事は…知ってる。
でもな、アイツも立派な大人だ。
アイツの恋愛に、とやかく文句をつけるつもりはない」


今の俺には、そう切り返すのが精一杯だった。


「冷たいんですね…」


落胆した表情で酒をあおる成宮。


「そうかもな…」


俺は冷たい男だ…
そう再認識したのと同時に
誰に遠慮する事なく
星良を好きだと言える成宮が羨ましかった。


「島津に、お前のその気持ち…伝えたのか?」

「えぇ、でも見事に振られました。
その不倫相手が誰よりも好きだから
俺を好きになることは無いそうです」


成宮はそう言って、寂しそうに笑う。
でもすぐ、いつもの生意気な笑みを浮かべ


「諦めるつもりは無いですけどね」
と、胸を張った。


「島津を振り向かせる自信はあるのか?」

「もちろん!!
不倫してる様な、いい加減で自分勝手な男より
俺の方がいいに決まってるでしょ?」

「……」


いい加減で自分勝手な男か…
随分な言われようだな。


「それに、セックスだって
彼女を満足させる自信ありますから」

「な、…セックスだと?」



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