涙と、残り香を抱きしめて…【完】

この野郎…
その言葉、もう一回言ったら
ブッ殺す…


殺気立った眼で成宮を睨み付けるが
ヤツは全く気付く気配はない。


それどころか、自分がどれだけ星良を大切に想っているか
延々と話し続けた。


初めはイライラしながら成宮の話しを聞いていた俺だったが
成宮の一途な気持ちを知るにつれ
その思いは徐々に変化してく。


酔い潰れて寝てしまった成宮の寝顔を暫く眺めながら、冷めてしまった酒を喉に流し込む。


星良…
こんなにお前の事を想ってる男と付き合ったら
星良も幸せになれるのかもしれないな…


だが、成宮に抱かれてるお前を想像した瞬間
そんな思いは吹っ飛び
再び怒りが込み上げてくる。


あのゾクリとする星良の表情を成宮なんかに見せてたまるか…


あのトロける様な甘い声を聞かせてたまるか…


やはり、コイツに星良を渡したくない。


イラつきを抑える事が出来ず
俺は成宮の部屋を後にし
自分の部屋へ戻った。


すると、携帯が鳴る。


『仁君、今度は金曜日でいい?』


あ…、忘れるところだった。


「すまない。今週は無理だ」

『えぇーっ!!どうして?』

「会社の子を連れてく約束したんだ。
だから来週にしてくれ」

『会社の子?
それって…もしかして、仁君の彼女?』

「バカ!!そんなんじゃない。
ただの部下だ」

『だったら、一緒でもいいじゃん』

「ダメなものはダメだ。
それに、連絡はメールにするって事になってただろ?
約束は守れ!!
じゃあ切るぞ」

『あ…』


ピッ…


半ば強引に会話を終わらせると
携帯をソファーの上に投げ捨てた。


何やってんだ俺は…
アイツに八つ当たりしてどうする…


でも、星良をアイツに会わせる訳にはいかない…




< 69 / 354 >

この作品をシェア

pagetop