涙と、残り香を抱きしめて…【完】

「まあまあ、2人共、落ち付けって…
別に水沢専務に参加してもらってもいいんじゃねぇの?」

「えっ?」


驚く私の肩を叩くと
成宮さんは内線で仁を呼び出す。


勝ち誇った様な笑みを浮かべる理子ちゃんに
正直ムカついて
私は長テーブルの下で拳を震わせていた。


程なく仁が現れ
何事も無かった様に試着が始まる。


仁は私を見る事なく
下着姿の理子ちゃんを眺め
時折、体に触れたりしていた。


仕事だもの…当然の事だ…
でも、なんかイヤ


「ねぇ、仁さん。
もっと胸寄せた方が綺麗に見えますよね?」

「そうだな…」

「ですよね?じゃあ…」


少し前かがみになった理子ちゃんが
仁の手を取り妖艶な表情で言う。


「仁さん、私の胸…寄せてくれます?」


なんなの?この娘…


他のモデルだったら、仕事だと割り切って平然と見てたと思う。
でも、露骨に甘えた声を出す彼女が疎ましくて
知らず知らずの内に、眉間にシワを寄せていた。


仁、断って…


そう願う私の想いは見事に裏切られ
仁は、躊躇する事なく
理子ちゃんのブラの中に手を突っ込み
胸を持ち上げる。


そして、ご丁寧に胸の形を整えたりなんかしてる。


仁…


嫉妬という感情が湧き上がり
私の心は穏やかではない。


試着が終わるまでの1時間
自分の感情を抑えるのに必死だった。


「これで終わりだな。
取り合えず、問題無い。
このまま商品化に向け進めてくれ」


事務的に話す仁に
事務的な返事を返す私


「分かりました」


すると、成宮さんが
「無事に試着終了って事で、お祝いでもしませんか?」
なんて言い出した。



< 84 / 354 >

この作品をシェア

pagetop