涙と、残り香を抱きしめて…【完】

成宮さんの余計な一言のせいで
仁と理子ちゃんを含めた部全員で飲みに行く事になってしまった。


最悪だ…


場所はいつもの居酒屋
私はワザと仁とは離れた席に座り
彼を無視していたんだけど
やっばり…気になる…


時折、仁に視線を移すと
理子ちゃんとの会話を楽しんでいる様に見えた。


笑ってるし…
ムカつく…


「よう、飲んでるか?」


成宮さんが私の隣に来て
グラスにビールを注ぎながら
耳元で囁く。


「あのモデルの理子ってさ
水沢専務の事、狙ってるよな」

「あら、そう…?」

「間違いないな…
お色気ムンムンで水沢専務に迫ってやがる。

まぁ、水沢専務も、あんな子に迫られたら悪い気しないよな。
今夜はお持ち帰りかも…」


人の気も知らないで
言いたい事言ってくれる。


大体、こんな飲み会なんか提案した成宮さんが悪いのよ!!


「バカみたい」

「はぁ?」

「専務があんな安っぽい女相手にするワケないじゃない」

「そうか?」

「そうよ!!
なんなら、成宮さんが落としてみたら?
東京じゃ、ああいうタイプの娘と遊んでたんでしょ?」


吐き捨てる様にそう言うと
私は席を立ちトイレに急いだ。


これ以上、成宮さんと話してたら
言わなくていい事まで言ってしまいそうで…
ボロが出そうで怖かった。


トイレに駆け込み
気持ちを落ち着かせようと
何度も深呼吸を繰り返す。


「ふぅーっ…」


しっかりしろ!!星良!!


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