AAA - ノーネーム -
アスカルは人目も確認せずに先ほどの銃を取り出した。女の子を殺した凶器は、俺の方へ迎えられている。銃口を睨めっこをしたのはこれが初めてだ。否、初めてではないのか。
何せ俺は、45回もアスカルに殺されているらしいのだから。どういう意味だろうか。未だに理解出来ないでいる俺は相当な馬鹿者か。
「お前は完璧な殺人者になるまで、俺に殺され続ける」
「何で」
「それが政府のプロジェクトだからな。仕方ない」
「殺されたら、生き返れない」
「日本の医療技術をなめるなよ。普通じゃないんだ、この国は。病気や何やで苦しむ人よりもお前の様な不完全にその技術を注ぎ込んでいる。それが国の為になると本気で思っているのだからな」
「プロジェクトって何だ」
「日本が世界に勝つ為に必要な人材を作る事だ。それがノーネームプロジェクト。お前が完全な殺人者になったら、俺はお前を殺すのを止める。殺す必要がないからな。そしてお前は世界中で要人を殺していく事になる。殺人と言う行為に何も感じない様になったら、な。あぁ、説明も飽きた。お前に説明するのはこれで46回目だ」
「どうして殺すんだ」
「誰だって死にたくはないだろう。死には誰にも勝てない。恐怖だからな。殺人を犯しているのに逃げようとするお前の様な馬鹿者は死の恐怖を使わなければ従わせる事が出来ないんだ」
「俺は死んだらどうなる」
「死なない。今からお前は俺に壊されて、政府が所有している特殊な病院に運ばれる。そこで蘇生の治療を受けて、もう一度今のお前に代わる殺し屋として生まれ変わる。簡単だろう」
「アスカル、俺は」
「全てを思い出しても殺されたくないと願うのが人間だ。逃げるより従順になった方が自分に得だと気付いたら、お前の勝ちだよ」
アスカルは眉を下げた。
「不安がるな。もう46回も同じ行為を繰り返しているんだ」
「でも、覚えていない」
「それは俺の壊し方が上手いのかも知れないな。まあ、病院で何かしらの細工がされているのかも知れないが。だが抗うのはもうよせ。相手は一国、お前が従う組織は、日本政府なのだからな」
何度同じ事を繰り返せば人は学習するのだろうか。否、それは俺が言えた事ではないか。45回も殺されて何一つ学習しないまま、また殺されるのだから――でも俺の心臓はまだ動いている。
この心臓が止まっても世間は何も変わりはしない。組織だって悪を蔓延らせているだけで何の改善もされない。俺の代わりに誰かが雇われて、アスカルの下で殺しを続ける事になる。
いや、再び雇われるのは俺か。あぁ死にたくない。このまま殺し続ける方が良いのかも知れない。何せ俺は、まだ生きている。脈打つ心臓がそれを証明している。走った後の様に暴れる心臓が、恐怖に溺れる心臓が、切なく締め付けられる心臓が俺が生きていると言う証なのである。
多分、そうなのだ。
だが引き金は引かれた。無情にもアスカルは泣いていた。