スカイグリーンの恋人


「えっ 記者を脅して書かせたんですか?」


「ははっ よろしく頼むよって笑って睨みを利かせた」



小野寺さんが楽しそうに応じているけれど、言っていることの半分は本当。

彼の笑顔は攻撃の武器にもなる。

ととのった顔で微笑みながら睨まれたら、雑誌記者は脅されたも同じ。


「注目されることはいいことだよ 話題になれば利益につながる

ホストだろうが ホステスだろうが 言わせておけばいい

どこもウチほどの集客力はないよ

閑散期に ほぼ満席の航空会社がほかにあるかい?」


「いいえ ウチだけです」


「北森君たちが頑張ってくれたおかげだ」


「ありがとうございます」



私を無視しているのかと思えば、急にこんなことを言い出す。

北森君……ではなく 北森君たち というのが不満だけど……


小野寺本部長は 『グリーン・エアライン』 の創設メンバーだ。

この人なくしては、ここまでの成功はなかったと言われ、その手腕は

他社も認めるほど。

私は本部長の誘いを受け入社を決めた。



「新人の発掘を手伝ってくれないか 

君の国際線の経験を ぜひウチのクルーに伝えて欲しい 

君の力を必要としている」



本部長の言葉が私の人生を変えた。

安定した環境を捨て未知の世界へ飛び込んだ私を、元の同僚たちは

理解できないと言う。

刺激のある毎日は新鮮で、それはあらたな挑戦をしたから味わえるもの。

自分の目を信じ、人材を探し出し育てる。 

この手応えは、経験したものだけが感じることができる。

現在活躍しているクルーのほとんどは、私がスカウトした。



「今日はどちらへ?」


「お役所まわりだ 本部長は何でも屋だからね 君は小松だったね 

誰と一緒?」


「田中君と浜川君と 関谷君です」


「関谷伊織か……彼 頑張ってるじゃないか」


「えぇ 彼は何事にも真面目に取り組みます 積極性もありますね」


「それに見た目もいい 恵まれた体格と女性が好む容姿 ここが重要だな」



私たちの会話を聞いていたスタッフが 「そうそう そこが重要です」 と

力を込めて同意した。

引き締まった顔がふと見せる柔らかさは、小野寺さんの魅力でもあり、  

本部長ではなく 「小野寺さん」 とみなにも呼ばせ、それが若いスタッフとの

距離を縮めている。

それなのに、私との距離は意識的に保っている。

もっと近づけてくれてもいいのに……

「おエライさんに頭を下げてくるよ」 と言いながら部屋を出て行った

小野寺本部長の後姿を、 複雑な思いでいつまでも見送った。



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