ラピスラズリの恋人
「おかえりなさいませ、貴島様」


「ただいま。何か伝言はある?」


「いえ、特には」


「ありがとう」


ドアマンの萩野(ハギノ)さんとの会話も程々に、エレベーターに乗り込んだ。


上昇する箱の中、逸る気持ちを抑えようと深呼吸をしたけど、それでも開いたドアから抜け出すと自然と足早になっていた。


ようやく部屋の前に着き、鍵を差し込んで回すとカチャリと音が響いた。


いつもと変わらない様子に、ほんの一瞬だけ落胆しそうになったけど…


直後にゆっくりと開けたドアの隙間から零れた光を目にし、その意味を理解して笑みが溢れ出す。


程なくして、リビングのドアが開いた。


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