Special Edition
「要~、悪いんだけど、冷蔵庫からマスタード取って貰える~?」
「はいはーい」
杏花の視線はまな板に固定され、声だけが飛んで来る。
一瞬くらい俺の方を見てくれたっていいのに。
俺は小さな溜息を零しながら、
冷蔵から小瓶に入ったマスタードを取り出す。
そして、俺が杏花のもとへ歩み進めると、
柔らかい笑顔を浮かべた村岡とすれ違う。
アイコンタクトとでもいうのか、
笑みを浮かべながら軽く会釈し、
フルーツが盛られた皿を手にしてリビングへと……。
やはり、さすが村岡だな。
俺の心中をよく察している。
そんな村岡の期待に応えるように、
俺は右手に斗賀、左手にマスタードの小瓶を手にして………。
「キャッ!!/////」
薄い桜色のエプロンを身に着けている杏花。
長い髪を緩くアップした事で露わになっている白く透き通るようなうなじに
俺は吸い寄せられるように軽く口づけた。
そして、何事も無かったかのように
彼女を覆うように背後から左腕を伸ばし、
手にしているマスタードをまな板の横にそっと置く。