Special Edition
右手の袖を掴まれ、カップの中の珈琲が揺れる。
仕方なくカップを持つ手を持ち替え、
右手はそのままにしてやった。
すると、そんな俺らを見ていた母親が……。
「準備は整ってるわよね?」
「はい、奥様」
「では、早速なんだけど、希和さんをお願いするわね?」
「はい、承知致しました」
使用人に指示をすると、希和を誘導するかのように横に立つ。
「お部屋へご案内致します」
「………京夜様」
「はぁ……。仕方ない、我慢しろ」
「…………」
目で訴えられてもどうする事も出来ない。
『御影』という立場上、社交の場に赴く事は日常茶飯事。
しかも、相手が彼女の存在を知って招待したとあれば、尚の事。
断る事が出来ないのが社会というものだ。
桐島蘭清、その名は世界的に有名な華道家。
俺も以前両親に連れられ、彼の個展を観に行った事がある。
スケールが大きく、斬新な生け方が印象的だった。
そんな人が希和に逢いたい……だと?
もしかして、またもや裏で何か、仕組まれてるんじゃないだろうな?
俺は疑いの眼差しで母親を見据えた。