Special Edition
医師を目指すきっかけとなったあの事故。
俺の中で『小川医師』は特別な存在となった。
長い年月を経て、俺は今……
小川医師(現在は教授)の下でインターンとして過ごしている。
だからこそ、睡眠時間が少なくても
食事の時間が取れなくても文句は無い。
彼のフィールドにいる事だけで――――。
数週間ぶりの帰宅。
『今から帰る』コールをしたら、
彼女が駅まで迎えに来てくれた。
そして、今――――。
自宅への道のりを彼女と肩を並べて歩いている。
久しぶりに彼女の手を握った。
相変わらず、小さくて柔らかい。
そして、少しひんやりとしている。
「葵、仕事はどうだ?」
「ん~、何とか頑張ってる」
「相変わらず、ガキにからかわれてんのか?」
「…………うん」
彼女は私立の男子高校の英語教諭をしている。
新任なのに2年C組の副担任もしているそうで
ガキ連中に毎日のようにからかわれてるらしい。
本人からはあまり聞いてないが、
俺にはお節介ババァという伝達のプロがいるのだ。