Special Edition
「ソウォンはいるか?」
「はい、世子様」
資善堂の世子嬪の居室を訪れたヘス。
世子嬪付きの女官に声をかけ、部屋に入ると。
「世子様っ、どうなされたのですか?」
取次ぎもなく入室して来たヘスに驚いたソウォン。
刺繍をしていた手が止まる。
「温陽に行くぞ」
「温陽?……いつですか?」
「準備が整い次第、今すぐにでも」
「はいっんッ!?」
お忍びで城を抜け出すことはあっても、ソウォンと旅をすることなど簡単には許されず。
『世継ぎを授かる』という名分で、ソウォンと共に暫く王宮を離れることが出来るのだから、これ以上の幸せはない。
ヘスはあまりの嬉しさに、ソウォンを抱き締めていた。
「この所、毎日のように世継ぎを急かされるであろう?だから、堂々と世継ぎを授かるためにという名目で温陽への許しを母上から頂いた」
「えっ?」
「極秘で温陽へ行くゆえ、そのつもりで」
「………はい」
「では、直ぐに出立出来るように準備を」
耳元に囁いたヘスは、妖美な眼差しをソウォンに向ける。
『たっぷり可愛がってやるから、覚悟しろ』とでも言わんばかりに。
床入りの日だけでも緊張の連続なのに、今すぐにでも出立すると言われては、心の準備が間に合いそうもない。
床入りであれば、数日前から通達がある。
その数日間に気持ちの整理を図ることが出来るのに。
今すぐと言われても……。
ソウォンの脳内は持っていく荷物のことを考えつつも、ほぼ心構えをすることで手一杯であった。