青い星〜Blue Star〜




「ほぅっ!総司のみならず、左之まで吹き飛ばすか!細身なのに大した奴だな!」



「感心するところではありませんよ、土方さん。」




呆れたように総司が言う。

大外刈をくらった総司も、たった今吹き飛ばされ庭に転がっている原田も奏よりも体格がよく身長も高い、この時代としては大男の部類だ。




「ごめんなさい!原田さん!悪気は半分ありませんでした!だから死なないで!」




裸足のまま庭に駆け降り倒れる原田の上体を起こし肩を思いきり揺らす。




『半分は悪気あったのか……』




顔を真っ青にする一同。

このおなごに逆らうべからず。

男たちに新たな暗黙の教訓が生まれる。




「沖田っ……大丈夫だから、それ以上揺らしてくれるな…俺そろそろ死ぬわ…」



「あっ!原田さん気づいたのか!良かった、良かった。」




そう言うと奏は原田を抱えた。

所謂姫さん抱っこである。




「うわぁああぁあ!左之が持ち上げられた!」



「怪力……」



「大女……」




言葉の暴力の嵐が奏に直撃。

奏は顔をしかめたまま左之を元の位置に戻し自らも席についた。




「全員セクハラで訴えてやる!」


「『せくはら』とは何ですか?」



眼鏡をかけた男が興味深そうに訊ねる。

眼鏡の奥が光った気がした。




「私の時代にあった言葉で正式には『セクシュアル ハラスメント』と言うんだ。メリケン(アメリカ)の言葉で意味は性的嫌がらせ。私の時代では、この時代の男尊女卑の考えと違って男女平等が原則だから「男のくせに力ないわね。」とか「女のくせに茶もいれられないのか。」とか言って相手に不快な思いをさせてしまったら裁判になったりすることもあるんだ。」




あぁっ!

私は何が悲しくてセクハラを懇切丁寧に説明しなければならないんだ!


と、心の底から思ったが、あの眼鏡には逆らえなさそうな雰囲気が溢れ出ていた。




「成程……それで、さっきの言葉に対して貴女は不快な思いをしたから『せくはら』になるのですね。怪力やら大女やらいずれにしても『女のくせに』という意味をを含んでいますからね。」



「おっしゃる通りでございます。」




うっかり口走った言葉がここまで根掘り葉掘り聞かれると思わなかった。


現代の言葉の意味を聞かれるにしたって、もう少し何かあったろうに。


何故セクハラと言ってしまったんだ!

無駄と判りながらも奏は数分前の自分を責めた。




「まぁ、山南さん。それくらいにしておいてやれよ。」




見かねた土方がフォローを入れるが、その顔は笑いを堪えているのが一目瞭然で。

土方だけでなく山南と呼ばれた男以外、皆笑いを噛み殺していて奏はますます不貞腐れた。




< 36 / 84 >

この作品をシェア

pagetop