青い星〜Blue Star〜
こほん、と近藤が咳払いをして立ち上がった。
「今日付けで壬生浪士組に入隊した、沖田奏さんだ。皆、知っているが奏さんはおなごだ。おなごを入隊させるのは特例だが、だからと言って奏さんを特別扱いしたりしないよう同志として、これから頑張っていこう!では、奏さん自己紹介を。」
自分にフラれると思っていなかった奏。
驚いてちゃっかり飲んでいたお茶が気管に入る。
「ぐっ…!げほっ!げほっ!」
「馬鹿!何やってんだ!」
咳き込んで前屈みになる奏の背中を総司が叩く。
暫くして、漸く落ち着いた奏だったが、まだ総司は飛び出す言葉とは裏腹に心配そうに背中を擦っている。
存外世話焼きだな、と言いかけそうになるが素直に彼の優しさに身を委ねた。
「はーっ、まいった。死ぬかと思った。」
「勘弁してくれよ。茶で死んだ奴の葬式なんて出たくねぇよ。」
「あはは!けだし至言だ!」
彼の介抱のおかげで復活した奏はその場で立ち上がった。
「見苦しいところを見せてすみません。沖田奏です。歳は十八。もう皆さん知ってると思いますが、私は150年先の世から来ました。これは他言無用で。それから未来の人間を利用しようなんて阿呆な真似はしないでくださいね。返り討ちにしますので。特技は剣術と手品です。女のくせになんて戯れ言ぬかす奴は片っ端から相手しますので。あ、あと私は医者ですので怪我や病気などありましたら、いつでもどうぞ。私の目が黒いうちは体調不良で出動できないなんていう隊士は出しませんのでよろしくお願いします。」
しーん、と静まり返った広間。
あれ?
私、何かまずい事言ったか?
「おめぇ、医者か!!」
総司がいきなり立ち上がった。
あまりの迫力に「おお…」と間抜けな返事をする。
「何故さっき言わなかった!?」
「訊かれなかったから。ちなみに私は西洋医学を学んだ。だがなぁ、道具がなくてな。あれがないと私の出来ることなんて、かなり限られてくる。まぁ、体調不良の隊士を出さないくらいなら道具がなくても朝飯前だが。」
「道具?それって、もしかして小刀や変わった形の鋏や銀色の受け皿とかだったりするか?」
「何故知っているんだ?」
恐らく彼が言うのはメスや外科手術用の鋏だ。
どうして西洋医学と無縁だったはずの総司が知っているのか。
「そいつらが入った黒い箱が俺に襲ってきたからだ。鼻を主にな。」
「は?鼻は私のせいじゃなかったのか?」
「奏はちゃんと手中に収めた。その後だ。怪しげな銀色の器具がたくさん入った黒い箱が落ちてきた。」
「お前こそ、何故それを早く言わない!?」
総司の肩を掴み前後に揺らす。
まさか私の手術用ケースも時渡りしたとは。
あれさえあれば、まさに鬼に金棒だ。
どれだけの命を救うことが出来るだろう。
奏は力が抜けたように膝から崩れた。
「おい!今度は何だ!?」
「嬉しくて……。それがあれば、たくさんの命を救えるんだ!医者としてこれほど喜ばしいことはない!」
男前すぎる奏に再び広間がわく。
「流石姐さん!」
「男気溢れてる!」
彼らに応えるため自分を必死で奮い起たす。
「いいか!お前ら!少しでもおかしいと思ったら絶対に来いよ!病は早期発見が命!大したことないからとか、勝手な自己判断するなよ!そういう油断が後から取り返しのつかないことになるからな!必ず助ける!武士に二言はない!!」
『いよっ!』
皆、柔らかい笑顔で私を受け入れてくれた。
この温かい人たちが決して時代の荒波にのまれぬよう、守り抜いてみせる。
死病でも史実でも、どんと来い!
奏は両拳をぎゅっと握り気合いを入れた。