結婚白書Ⅳ 【風のプリズム】
2.陸の章

 遠い記憶



今年の遺跡めぐりはどこに行こうか メンバーの意見が分かれていた

毎年夏休みに国内の遺跡をたずね 合宿の名のもとに安い宿に泊まり 

一晩中語り明かすのだが 去年おととしと お世辞にも綺麗だと言えない

場所が合宿所だったことに 女子から不満が出てきたていた



「今年は私達が決めていいんだから せめて泊まる所は快適な場所にしてね

三年続けて あんなむさくるしい部屋に寝るなんて いやだから」


「寝なきゃいいさ どうせ夜通し起きてるんだ 

部屋なんてどうでもいいじゃないか」


「いやよ! ほら みんな意見を言わないと 今年も悲惨な合宿になるわよ」



元気のいい菅野が先導して 他の女子をあおっている

僕の頭の中に ある場所が浮かんでいた

桐原の祖父の家に遊びに行ったとき 連れて行ってもらったところだ


工業団地の造成中に遺跡が発見されて そこの開発がストップしたのだと

聞いていた

普通なら ある期間発掘調査をしたのち また埋め戻し その上に

現代の建物を建ててしまうのだが 当時の知事の勇断で工業団地予定地は 

そっくりそのまま保存されたと 桐原の祖父が嬉しそうに教えてくれた

さらに と祖父が付け加えたのは 工業団地で税金を取りそこなったが 

遺跡を観光地にしてしまうとは知事もやり手だと 生真面目な祖父にしては 

面白いものの見方をするんだと思ったのを思い出していた



「遠野君 その顔 心当たりがあるんでしょう? どこなの」


「う~ん ないこともないけど……ちょっと遠いんだ 旅費がなぁ」



女の子達が身を乗り出している

旅費なんてアルバイトで何とかなると もう決めたような口ぶりの子もいた


場所を告げると パソコンを開いて即座に検索する

画面を覗き込む彼らから おぉ……と感嘆の声が上がった



「遺跡自体は まだ完全に発掘が終わっていないらしい 

だけど 管理棟や研修施設もあるから設備は充実してたと思う」



僕が言い終わらないうちに あった とパソコンを見ていたヤツが声をあげた

みなが画面を覗き込み スクロールされる画面に吸い寄せられ 

クリックされる度に歓声が上がる 

その顔はどれも 今年はここに行こうと言っていた




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