ジムノペディ
ねぇ・・・僕が、どうして魂を持ってしまったか、知ってる?

ガラスの瞳で、初めて君を見たとき・・・一瞬で恋したんだ。


僕は、君の傍に行きたくて、君に触れてみたくて

君の唇と重ねてみたくて・・・

そんな気持ちが募って魂を持ってしまったらしい。


僕は、期待に胸を膨らませて魂が生き続けることを願った。

いつか、ピノキオのように人間になれると願った。

でもそれは儚い夢で、物語のようにはいかなかったよ。

いや、もしかしたらそのまま

ただ・・・君の涙を拭っているだけだったら

願いが叶って、人間になれたかもしれない。

ずっとずっと君の傍にいられたかもしれない。

でも君の悲しむ姿は、もう見たくなかったから

僕は、君の苦しみを消してあげたくて

絶対に・・・絶対に許されないことをしてしまったんだ。

だけど、後悔はしていない。

たとえ君の傍にいられなくても

魂が、この想いが、記憶が全て消えてしまっても

君と一緒にいた短い時間は、僕の宝物だから。

僕の・・・・生涯一度きりの恋よ

・・・・・サ ヨ ウ ナ ラ・・・



*****************************




あれから一年が過ぎようとしていた。

ドリアンは、今も私の中で生き続けている。

きっと今後、結婚することもなく

生涯、彼を想いながら過ごすだろう。

会社にも、ようやく平和が戻ってきた。

「じゃぁ おつかれさま」

「おつかれさまでした」

数人の社員と挨拶を交わすと

車に乗り込んで、横浜へ向かった。

ドリアンと初めてデートした思い出の場所。

たった一年前のことなのに

遠い記憶のような気がする。

綾香はゆっくりと歩きながら、その記憶を辿っていた。

あの日、あの時

彼が言った言葉のひとつ ひとつ・・・

ほんのり香る彼の・・・

!!!!!!

彼の香りがして振り向くと

そこには、まさにあの頃と変わらないそのままのドリアンがいた。

「ドリアン?」

彼は、一瞬キョトンとした顔をすると、すぐに優しく微笑んだ。

綾香は、そのまま駆け寄りたい衝動にかられたが

「あ・・・ああ。ごめんなさい。人違いでした」

そう言って、歩き出そうとすると

「あの・・・よかったら食事でも いかがですか?」

「えっ?」

綾香が振り返ると

サラサラの柔らかそうな髪が風に揺れて、

見え隠れする美しい表情のその人は、

優しく微笑んで綺麗な手を差し出す。

「知っていますか?

男と女って食事するところから、全てが始まるんですよ」

綾香は、激しく騒ぐ心臓を抑えながら

震える手を差し出した。


Fin.____________________________________。



備考:マチンの種子
マチン(馬銭、学名 Strychnos nux-vomica)は、
マチン科マチン属の常緑高木。
アルカロイドのストリキニーネを含む有毒植物及び薬用植物として知られる。
種小名(ヌックス-フォミカ)から、ホミカともいう
マチンの主成分はストリキニーネ及びブルシンで、種子一個でヒトの致死量に達する。



※最後まで読んでくださって、ありがとうございました。

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