ジムノペディ
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静かなホテルの一室で、二人の息遣いが荒々しくなっていく。
卓に刺激されて、快楽の中で歪んでいく要の美しい表情・・・
同じ快感を共有する喜びを与えてくれる愛しい人
繋がった瞬間の痛みと快感・・・
このときだけが、卓に愛されてると実感する。
身も心も落ちていきそう。
絶頂に達し 果てたあとも
まだまだ足りないとばかりにお互いを求める。
しばらく会えない寂しさの空間を埋めるように
何度も何度も愛し合った。
「ああ・・・卓・・・・愛してる・・・・
絶対に 僕を裏切らないで・・・・」
「もちろんだ・・・・要しか愛せないよ」
それでも要の心は満たされない。不安は募るばかりだ。
愛する卓が、あの女と暮らすなんて考えたくもなかったが
どうしても頭から離れない。
「愛してるよ」
「僕も。信じてるから」
「ああ。ほんの少しの辛抱だよ」
そう言うと卓は、要にそっとキスをした。
もしも卓が、あの女を本気で愛するようになったら・・・・・
想像するだけで嫉妬で狂いそうになる。要の心は壊れそうだった。
********************************************************
【人気モデルのJun!覚醒剤容疑で逮捕・・・・・】
それは朝のトップニュースだった。
数人の役員を急遽呼び出し
今後のイメージアップ対策の緊急会議を開いた。
「社長!早急に違うイメージモデルを選びましょう」
「Junのイメージを払拭するために清楚な女性モデルMはどうでしょう?」
「いいえ!イメージモデルは、すでに決めてあります」
綾香が、そうきっぱりと答えると 皆一斉に綾香に注目した。
「それは、誰ですか?」
「これ以上の人はいないわ」
「その人は?」
「ドリアンよ。あなた方も知っている人形のドリアン」
皆から驚きの声が漏れる。
「社長!本気ですか?Junをモデルに作らせた人形ですよ。
イメージアップどころか、イメージダウンに・・・」
「確かに彼はJunに似せて作らせた人形。
しかし 髪の色と髪型、瞳の色を変えるだけでも
Junとは全く違う人物になります。
神崎!すぐにスタイリストを呼んでください。
少し手を加えるだけで、私の言っていることがわかるでしょう。
では、また午後に集まってください。
準備が整い次第、メールを送ります」
綾香は、そう言うと皆のざわめきを無視して さっさと会議室を出ていった。
社長室へ戻るとドリアンの前に座ってみる。
瞬きひとつしない
一点を見つめる綺麗な横顔のドリアン・・・・。
あまりに美しくて、昔読んだオスカー・ワイルドの
【ドリアン・グレイの肖像】からイメージして付けた名前。
今はその名前を思うだけで胸がときめいた。
なぜ、突発的にドリアンをイメージモデルにしようなんて思ったのか
自分でもわからない。
出来れば彼を人目に曝したくない。
しかし、どうしても彼以外にイメージできる人はいなかった。
今こうして目の前に座っていても胸が高鳴ってドキドキが止まらない。
見れば見るほど、言葉には出来ない不思議な魅力を感じた。
ドリアンは、天使にも見えるし、妖艶で危険な魅力を感じるときもある。
いったいいくつの顔を持っているのだろう?
静まり返った部屋に、突然電話が鳴った。
「はい!もしもし?」
「ああ 卓です」
「今日は、何ですか?」
「冷たいですね。ニュース見ましたよ。僕に何か出来ることがあったら
遠慮なく言ってください」
「ありがとうございます」
「それと、結婚式の会場なんですが、一緒に見に行ってもらえますか?
とてもいいところがあるんです」
「高柳さん!私、今それどころじゃなくて・・・」
「それどころなんて言い方しないでほしいな」
「ごめんなさい!そんなつもりで言ったのでは・・・」
「新居は、綾香さんの会社からすぐの場所に決めようと思っています」
「え?ここの近くに?」
「そう。気に入らないですか?」
「い・・・いいえ・・・」
「よかった」
綾香が、そっと電話の録音ボタンを押した。
「あの・・・・・彼・・・北川さんとは」
綾香が話し終わらないうちに卓が答えた。
「北川要は、僕の最高のパートナーだ。まったく優秀すぎる秘書だよ」
機転がきく卓の返答からは、なかなか証拠は掴めそうになかった。
「それは、結婚後も関係を続けるということでしょうか?」
「優秀な秘書は、あなただって手放したくはないでしょ」
綾香は、苛立つ気持ちを押さえようと胸に手を当てた。
「そういう意味ではありません。恋人として関係を続けるかということです」
「(笑)綾香さん!あなた何か勘違いをされていますね。僕と彼が恋人とは・・・
まぁ、そういう綾香さんも魅力的ですが。実に面白い」
その時、社長室のドアをノックする音がした。
「高柳さん!また明日にでも電話します」
綾香が急いで電話を切ると、ドアが開いて神埼が入ってきた。
「失礼します。スタイリストが到着しました」
「すぐに通してください。午後の会議に間に合わせないと」
「わかりました」
神崎が再びドアを開けると、スラッとした長身の女性が入ってきた。
地味だが、細かい色使いはセンスのよさが窺えた。
「スタイリストのMikaです」
ごく在り来たりな挨拶を交わすと、
綾香は、さっそくドリアンを紹介した。
「人形をイメージモデルに起用するなんて正気じゃないとお思いでしょ」
Mikaは完璧すぎるドリアンを見ると、立ちすくんでしまった。
「まさか・・・・こんなに美しい人形が存在しようとは・・・」
「彼を間近で見て驚かなかった人はいないほど・・・実物のJunですら
彼の前では色褪せて見えたわ。まるで魔法にかかったみたいに虜になる」
「本当に・・・・まるで生きているよう」
「彼をJunとは違うイメージにしてほしい。
彼の・・・神秘的な独特の雰囲気を生かしてほしいの・・・」
「わかりました」
綾香は、神崎のほうを向くと
「私は、隣の部屋にいますから・・・」
それだけ言うと、プライベートルームへ入って、ソファーに横になった。
何度考えても、不思議な夢だ。
例え現実には存在しない人であっても、想い出すだけでドキドキする。
こんなときめいた気持ちは、初めてだった。
彼の、細くて長い指・・・・綺麗な手で涙を拭ってくれたことも
すべて夢の中の出来事なのに・・・・
(わたし・・・・恋したとか?)
よくよく考えて、首を横に振った。
(ありえない・・・・)
だけど・・・・・この手に 確かに彼の逞しい背中の感触が残っている。
綾香は、ソファーに横になりながら、おでこに右腕を乗せて眼を閉じる。
そのまま闇に誘われるように眠りに落ちた・・・・。
コンコン!!!
ノックの音で目が覚めた。
「どうぞ」
神崎が入ってきた。
「社長。終わりました」
「今行くわ」
綾香は時計を見ると3時半だ。
すぐに隣の社長室のドアを開けた。
思わず動けなくなるほどの衝撃だった。
眩いばかりのドリアンが目に飛び込んできたのだ。
艶やかな黒髪が、より一層神秘的で、更に美しく生まれ変わり
綾香の目の前に現れた。
淡いグレーの瞳はクリスタルガラスのように透き通っている。
以前のドリアンよりもミステリアスで
見る者の心を捉えて離さない 圧倒的な存在感があった。
「瞳と髪型、ヘアカラーにメイクを変えるだけで、ずいぶん印象が変わります。
もうJunの人形だと、誰も思いません。
それと・・・衣装はこんな感じでどうでしょうか?」
そう言うとMikaは、アクセサリーと服のサンプルを出してきた。
綾香は、慎重にチェックを始める。
「来週までにいくつか用意出来るかしら?」
「ええ。もちろんです」
「よかった」
Mikaは、サイズを測り、何枚か写真を撮ると
急いで片付けを済ませて社長室を出て行った。
「神崎。彼女を選んだのは正解だったようですね。感謝しています」
「ありがとうございます」
綾香は、パソコンの前に座ると、各重役に一斉メールを送信した。
午後の会議で、皆が納得したのは言うまでもない。
静かなホテルの一室で、二人の息遣いが荒々しくなっていく。
卓に刺激されて、快楽の中で歪んでいく要の美しい表情・・・
同じ快感を共有する喜びを与えてくれる愛しい人
繋がった瞬間の痛みと快感・・・
このときだけが、卓に愛されてると実感する。
身も心も落ちていきそう。
絶頂に達し 果てたあとも
まだまだ足りないとばかりにお互いを求める。
しばらく会えない寂しさの空間を埋めるように
何度も何度も愛し合った。
「ああ・・・卓・・・・愛してる・・・・
絶対に 僕を裏切らないで・・・・」
「もちろんだ・・・・要しか愛せないよ」
それでも要の心は満たされない。不安は募るばかりだ。
愛する卓が、あの女と暮らすなんて考えたくもなかったが
どうしても頭から離れない。
「愛してるよ」
「僕も。信じてるから」
「ああ。ほんの少しの辛抱だよ」
そう言うと卓は、要にそっとキスをした。
もしも卓が、あの女を本気で愛するようになったら・・・・・
想像するだけで嫉妬で狂いそうになる。要の心は壊れそうだった。
********************************************************
【人気モデルのJun!覚醒剤容疑で逮捕・・・・・】
それは朝のトップニュースだった。
数人の役員を急遽呼び出し
今後のイメージアップ対策の緊急会議を開いた。
「社長!早急に違うイメージモデルを選びましょう」
「Junのイメージを払拭するために清楚な女性モデルMはどうでしょう?」
「いいえ!イメージモデルは、すでに決めてあります」
綾香が、そうきっぱりと答えると 皆一斉に綾香に注目した。
「それは、誰ですか?」
「これ以上の人はいないわ」
「その人は?」
「ドリアンよ。あなた方も知っている人形のドリアン」
皆から驚きの声が漏れる。
「社長!本気ですか?Junをモデルに作らせた人形ですよ。
イメージアップどころか、イメージダウンに・・・」
「確かに彼はJunに似せて作らせた人形。
しかし 髪の色と髪型、瞳の色を変えるだけでも
Junとは全く違う人物になります。
神崎!すぐにスタイリストを呼んでください。
少し手を加えるだけで、私の言っていることがわかるでしょう。
では、また午後に集まってください。
準備が整い次第、メールを送ります」
綾香は、そう言うと皆のざわめきを無視して さっさと会議室を出ていった。
社長室へ戻るとドリアンの前に座ってみる。
瞬きひとつしない
一点を見つめる綺麗な横顔のドリアン・・・・。
あまりに美しくて、昔読んだオスカー・ワイルドの
【ドリアン・グレイの肖像】からイメージして付けた名前。
今はその名前を思うだけで胸がときめいた。
なぜ、突発的にドリアンをイメージモデルにしようなんて思ったのか
自分でもわからない。
出来れば彼を人目に曝したくない。
しかし、どうしても彼以外にイメージできる人はいなかった。
今こうして目の前に座っていても胸が高鳴ってドキドキが止まらない。
見れば見るほど、言葉には出来ない不思議な魅力を感じた。
ドリアンは、天使にも見えるし、妖艶で危険な魅力を感じるときもある。
いったいいくつの顔を持っているのだろう?
静まり返った部屋に、突然電話が鳴った。
「はい!もしもし?」
「ああ 卓です」
「今日は、何ですか?」
「冷たいですね。ニュース見ましたよ。僕に何か出来ることがあったら
遠慮なく言ってください」
「ありがとうございます」
「それと、結婚式の会場なんですが、一緒に見に行ってもらえますか?
とてもいいところがあるんです」
「高柳さん!私、今それどころじゃなくて・・・」
「それどころなんて言い方しないでほしいな」
「ごめんなさい!そんなつもりで言ったのでは・・・」
「新居は、綾香さんの会社からすぐの場所に決めようと思っています」
「え?ここの近くに?」
「そう。気に入らないですか?」
「い・・・いいえ・・・」
「よかった」
綾香が、そっと電話の録音ボタンを押した。
「あの・・・・・彼・・・北川さんとは」
綾香が話し終わらないうちに卓が答えた。
「北川要は、僕の最高のパートナーだ。まったく優秀すぎる秘書だよ」
機転がきく卓の返答からは、なかなか証拠は掴めそうになかった。
「それは、結婚後も関係を続けるということでしょうか?」
「優秀な秘書は、あなただって手放したくはないでしょ」
綾香は、苛立つ気持ちを押さえようと胸に手を当てた。
「そういう意味ではありません。恋人として関係を続けるかということです」
「(笑)綾香さん!あなた何か勘違いをされていますね。僕と彼が恋人とは・・・
まぁ、そういう綾香さんも魅力的ですが。実に面白い」
その時、社長室のドアをノックする音がした。
「高柳さん!また明日にでも電話します」
綾香が急いで電話を切ると、ドアが開いて神埼が入ってきた。
「失礼します。スタイリストが到着しました」
「すぐに通してください。午後の会議に間に合わせないと」
「わかりました」
神崎が再びドアを開けると、スラッとした長身の女性が入ってきた。
地味だが、細かい色使いはセンスのよさが窺えた。
「スタイリストのMikaです」
ごく在り来たりな挨拶を交わすと、
綾香は、さっそくドリアンを紹介した。
「人形をイメージモデルに起用するなんて正気じゃないとお思いでしょ」
Mikaは完璧すぎるドリアンを見ると、立ちすくんでしまった。
「まさか・・・・こんなに美しい人形が存在しようとは・・・」
「彼を間近で見て驚かなかった人はいないほど・・・実物のJunですら
彼の前では色褪せて見えたわ。まるで魔法にかかったみたいに虜になる」
「本当に・・・・まるで生きているよう」
「彼をJunとは違うイメージにしてほしい。
彼の・・・神秘的な独特の雰囲気を生かしてほしいの・・・」
「わかりました」
綾香は、神崎のほうを向くと
「私は、隣の部屋にいますから・・・」
それだけ言うと、プライベートルームへ入って、ソファーに横になった。
何度考えても、不思議な夢だ。
例え現実には存在しない人であっても、想い出すだけでドキドキする。
こんなときめいた気持ちは、初めてだった。
彼の、細くて長い指・・・・綺麗な手で涙を拭ってくれたことも
すべて夢の中の出来事なのに・・・・
(わたし・・・・恋したとか?)
よくよく考えて、首を横に振った。
(ありえない・・・・)
だけど・・・・・この手に 確かに彼の逞しい背中の感触が残っている。
綾香は、ソファーに横になりながら、おでこに右腕を乗せて眼を閉じる。
そのまま闇に誘われるように眠りに落ちた・・・・。
コンコン!!!
ノックの音で目が覚めた。
「どうぞ」
神崎が入ってきた。
「社長。終わりました」
「今行くわ」
綾香は時計を見ると3時半だ。
すぐに隣の社長室のドアを開けた。
思わず動けなくなるほどの衝撃だった。
眩いばかりのドリアンが目に飛び込んできたのだ。
艶やかな黒髪が、より一層神秘的で、更に美しく生まれ変わり
綾香の目の前に現れた。
淡いグレーの瞳はクリスタルガラスのように透き通っている。
以前のドリアンよりもミステリアスで
見る者の心を捉えて離さない 圧倒的な存在感があった。
「瞳と髪型、ヘアカラーにメイクを変えるだけで、ずいぶん印象が変わります。
もうJunの人形だと、誰も思いません。
それと・・・衣装はこんな感じでどうでしょうか?」
そう言うとMikaは、アクセサリーと服のサンプルを出してきた。
綾香は、慎重にチェックを始める。
「来週までにいくつか用意出来るかしら?」
「ええ。もちろんです」
「よかった」
Mikaは、サイズを測り、何枚か写真を撮ると
急いで片付けを済ませて社長室を出て行った。
「神崎。彼女を選んだのは正解だったようですね。感謝しています」
「ありがとうございます」
綾香は、パソコンの前に座ると、各重役に一斉メールを送信した。
午後の会議で、皆が納得したのは言うまでもない。