もっと美味しい時間  

一時の気の迷いかぁ……。
確かに慶太郎さんと綾乃さんのキス現場を見なければ、この決断をしなかっただろう。
でも今は、そうすることがごく普通のことのように感じていた。

「後悔するかもしれない。ほんとはここで、私と慶太郎さんは離れていても大丈夫ですからって強気なこと言えればカッコ良かったんですけど……」

途中で言葉を止めると、最初とは明らかに顔つきが変わっている綾乃さんにも笑顔を向けた。

「ほらっ、近くにいないと、また綾乃さんにキスされちゃうかもしれないですしっ。それはちょっと嫌かなぁ~と」

ほんの冗談で言ったつもりの一言に、綾乃さんがバツの悪そうな顔をした。
慶太郎さんも、渋い顔をしている。
ただ一人、京介だけが可笑しそうにニヤニヤしていた。

「綾乃さん。慶太郎さんにキスしたこと、もし謝られたとしても許すつもりはありません。でもあのキスは慶太郎さんにも非があります。なのであれはチャラ、無かったことにします」

目を閉じれば、まだ蘇ってくるあの光景。今でも胸が痛くなる。
二人のキスシーンは、私にそれほどまでの衝撃を与えた。
きっと無かったことにはできても、私の中では忘れることはないだろう。
だからこそ、ハッキリと伝えたいことがある。

「でももう二度と慶太郎さんにキスしないで下さい。次は無かったことには出来ませんから。それから……慶太郎さんっ!!」

急に名前を呼ばれて、慶太郎さんの身体がビクッと跳ねた。
上から目線でモノを言うことなんて、こんな機会は滅多にない。
ここはビシっと言ってやらなきゃね。

「あなたも容易くキスなんかされないで下さいっ!! それにどんな理由があったとしても。分かりましたか?」

「分かった……」

私と慶太郎さんのやり取りを見て、京介は今にも笑い出しそうだ。
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