もっと美味しい時間  

それはそうかもしれない。
私も遠距離恋愛をしてみて、こんなに寂しい思いをするのかと思い知った。
離れていると、相手の心がこんなにも分からなくなってしまう、信じられなくなくなってしまうのかと……。

だから昨日の夜、私は一生懸命考えた。
慶太郎さんの気持ちをもう一度ちゃんと確認して、ひとつの答えを導き出した。
それを今から言おうとすると、何故か手が震えだす。
隣に座っている慶太郎さんを見上げると、世の中の誰よりも安心できる笑顔があった。
そっと手を握ると優しく握り返され、震えがピタっと止まると、私の顔に自然と笑顔が戻った。

「綾乃さんがそう言うと思ってました。私も離れてみて、心が離れてしまう不安にかられましたから」

そう言うと、少し綾乃さんの顔つきが変わったような気がした。
もう一度、ゆっくり息を吐くと、繋いでいる手に力を込めた。

「だから私、仕事を辞めて大阪に来ることにしました。やっぱり大好きな慶太郎さんの近くにいたいです」

言ってしまった。
部屋の空気が変わったのに気づく。
“大好きな…”は要らなかったかなぁ。
ちょっと照れくさくて顔を見られないように横を向くと、今まで黙っていた慶太郎さんが口を開いた。

「百花、一時の気の迷いでそんな大事なことを決めると、あとで後悔するぞ」

それは怒っているのか心配してるのか、どっちとも取れないような声だった。



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