もっと美味しい時間  

「お前のことは、俺が一番分かってんだよ」

そのまま顔を近づけて、手が触れていない方の頬にチュッとキスをした。
目の先には、大勢の人たちが行き交っているというのに……。
慶太郎さんには本当、困ってしまう。

「顔、真っ赤っ!」

頬から手を離し、私を指さして笑う慶太郎さんを睨みつけた。

「誰のせいだと思ってるのっ!!」

「あっ俺か。広島に着くまでには、顔冷ましとけよ」

からかうようにそう言うと、頭をポンっと撫でた。
慶太郎さんがする行動と言葉に一喜一憂していると、身体がヘトヘトになっちゃうよ……。
運転席に乗り込み普段通りのクールな顔を見せる慶太郎さん。
それを見て、大きな溜め息が出てしまう。

「出発するけど、トイレとかいいか?」

「大丈夫」

「漏らす前に言えよ」

「慶太郎さんのバカっ!!」

頬を膨らませ顔を窓の方に向けると、慶太郎さんの盛大な笑い声が車内に響いた。


車は順調に走っていた。外も爽やかに晴れている。
なのに私の心は、広島に近づくにつれてどんよりと曇っていった。

「慶太郎さん、胃が痛い……緊張してきた……」

「おいおい、大丈夫か?」

「大丈夫じゃない……」

そう言って膝に突っ伏すと、慶太郎さんの呆れた声。

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