もっと美味しい時間  

ここのところ激務で、部屋があまり綺麗ではなかった。
ここに来た当初はハウスクリーニングが来ていたが、経費削減のため断った。
男一人が暮らす部屋だ。掃除ぐらい、今までどおり自分で出来る……。そう思っていたが、思っていた以上に仕事に時間を割かれ、そこまで手が回らなくなっていた。

京介から『今晩は祝で外食にするか?』と言われたが、朝からの商談疲れもあったため、我が家での飲み会にしないかと提案した。
デパ地下で適当に何か買ってきてくれと頼んだし、ここに来るまではまだかなりの時間が掛かるだろう。

それまでにささっと掃除を済ませて、軽くシャワーでも浴びるか……。
そんなことを考えながらマンションのタッチパネルに鍵をかざしていると、後ろから「お兄ちゃんっ」と声を掛けられて振り向いた。

「明日香っ!  急にどうしたんだよ?」

「ちょっとこっちに用事があってね。今晩、泊めてくれない?」

「お前はいつも突然だな」

東京のデザイン事務所で働いている妹の明日香。
3歳違いで、今年で28になる。百花より一つ上か。
普通の兄妹より仲が良いだろうか、特に大阪に来てからは頻繁に遊びに来るようになった。

だが、いつも突然だから困る。
まぁでも百花にも紹介したいし、部屋もたくさん余ってるからな……。

「今日は人がたくさん来る。掃除とか手伝うなら泊めさせてやってもいいぞ」

ちょっと意地悪を言ってやったが、妹は難なくその条件を受け入れると、エレベーターホールへと歩いて行ってしまった。
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