もっと美味しい時間  

部屋に入ると、掃除がしやすいようにラフな服に着替える。次にキッチンへ向かうと、冷蔵庫からよく冷えたミネラルウォーターを取り出して喉を潤した。

「お兄ちゃん、どこからキレイにする? まずはここに散らばってる服たちを、洗濯しちゃってもいい?」

「頼む」

「はいは~いっ」

何だか今日は、ヤケに楽しそうだな。いいことでもあったんだろうか。
まぁ妹が楽しそうにしているのを見るのは、悪い気分じゃないが……。
歳が近い百花と重ねて見てしまっているのか、顔がにやけてしまう。

シンクに貯まっている食器類を洗いながら、少し熱ってしまった顔を冷ましていると、キッチンの入口からひょこっと顔を出す明日香。

「ねぇ、お兄ちゃん。今晩来るのは京介さんや綾乃さん?」

「ああ」

「やっぱり~。久しぶりに綾乃さんに会えて、嬉しいなぁ」

「それと……母さんから聞いてると思うけど、俺の結婚相手も来るから」

「えっ?」

今までにこやかな顔をしていた明日香から、笑顔が消える。
でもそれも一瞬で、また満面の笑顔に戻ると脱衣場に行ってしまった。
俺なにか、あいつの気に触ること言ったか?
全く分からん……。

まぁ大したことじゃないだろうとそのことはすぐに忘れてしまい、リビングや廊下の掃除機を掛け終えると、汗を流すためにバスルームへ向かった。
洗い終わった洗濯物を、明日香がハンガーにかけている。

「悪いな。それ干したら、明日香はリビングでゆっくりしてろよ。喉乾いたなら、冷蔵庫の中のもの、何でも飲んでいいから」

「はいはい、分かったからさっさと入ったら?」

「おうっ」

そう返事をして頭をクシャッと撫でてやると、その手をパシっと叩かれる。

「もう子供じゃないんだからっ」

怒った顔をして俺にタオルを渡すと、洗濯物を持って脱衣場から出て行った。
明日香の態度に多少の違和感を感じながらも、百花や京介がもうすぐくるだろうと、慌ててシャワーを浴びた。



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