もっと美味しい時間  

シャワーを勢い良く頭から浴びると、全身をボディーソープで洗う。
男の風呂なんて簡単なもんだ。女性みたいに時間をかけることなんてそうそうない。
まぁこれが百花と一緒に入るならば、話は別だが……。

ボディーソープの泡を流し終えると、徐ろにシャンプーのボトルへと手を伸ばす。

ジュポッジュポッ……

そうだった。昨晩使った時に無くなったんだった。
しょうがない。

「おーいっシャンプー取って。なぁ、昔みたくお前も一緒に入るか?」

もちろん冗談だ。明日香も分かっているだろう。
俺も明日香も小学生の頃は、毎日一緒に入ったもんだ。喧嘩もよくしたが、仲の良い兄妹だった。
あの頃を思い出し、思わず“一緒に入るか?”なんて言ってしまったのだが……。
明日香から戻ってきた返事は、意外なものだった。

「もう慶太郎ったらエッチなんだから。ちょっと待ってて」

はぁ!? 慶太郎って何だよっ!  今までにあいつが俺のことを、一回でも呼び捨てにしたことがあるか? 無いよな。それも、“エッチ”とか言ってたし……。
本当に今日のあいつはどうかしてる。いきなりどうしたって言うんだ。

わけが分からなくてシャワーを浴びたままぼーっと突っ立ってると、バスルームの扉が開いて、詰替え用のシャンプーを持った手だけが伸びてきた。
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